自らを越えて

悪夢への誘い

 ところでここで些か俺の奇妙な性癖について一言述べたいのだが、こういう風に自分の素行を改める上において何かの名案を思いついた時、その思い付いたということだけで満足してしまい、その効果を過信し、恰も事が成ったかのように錯覚してしまうところがあった。それでもそれを実行するならまだしもその名案を大事にする余りなかなか敢行せず、いろいろと脇道、横道に逸れては躊躇し続けてしまう…という悪癖があった。これは思うに万一この素行改めなる名案を実行しても、もし何の効果が得られなかったら…と恐れる気持ちが強いのだろう。挙句、名案もその実行も、うやむやの内に雲散霧消してしまうケースがしばしばだった。中学校時の担任の教師から「意志薄弱のきらいがある」と指摘されたことがいつまでも忘れられない。
 しかし今回はそんな躊躇癖をすっ飛ばしてしまうほどの強烈な恐怖の体験をしたのだった。体験と云っても現実ではなく、夢の中、なかんづく悪夢の中でのことだった。登山敢行を前に例によってうじうじと躊躇気味になっていたある晩のこと、俺は恐怖ではあったが明らかに掲示夢と思われる、実にインパクトのある悪夢を見た。では次にそれを記そう。
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