自らを越えて

最後の夕日が…行く

恐怖に憑かれれて長い廊下を俺は走る、走る!その途中窓に目をやると今しも夕日の最後の一指しが地平に没しようとしていた。そしてこれが奇妙なのだが身は全力疾走をしているのに一方で立ち止まって窓の外の夕日を見ている俺がいるのだった。校門を出て行こうとしている二人連れがいる。田辺さんと矢内さんだった。田辺さんが「村田くーん、いっしょに帰りましょうよ」と俺に明るい声で呼び掛けてくれる。夕日の最後の一指しともども彼女らが俺にとっては希望の最後の光のように見える、思われる。俺は見栄も外聞もなく大声で「待ってくれー!俺を、置いて行かないでくれー!」と彼女らに叫ぶのだった…。
 ようやく一階に降りる端の階段へと辿り着いた。背後から差し迫る恐怖にアバよっとばかり俺は一気に階段を駆け下りようとした、が…。階段は間の踊り場ともども既に闇に閉ざされていて、そこにもの凄い恐怖が潜んでいるのが感じられた。恐らく亡霊なる新河が先廻りしてそこに居るのだろう。怖くてとても降りて行けない。逡巡する内に一階からミシリ、ミシリとばかりに足音が伝わって来た。ふり向けば背後の廊下の闇も増していて戻るなどとても不可能だ。進退窮まった俺はその場にただ立ち尽くすのみである。
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