自らを越えて

バス停を変えようか…?

それは普段の意志薄弱さや躊躇癖を矯正する上に於てのことなのだが。なおこの縦走ルートについて一言付言するが普通ならこのルートは大倉尾根→塔ノ岳→蛭ヶ岳→焼山となる筈なのだ。そのとっかかりを三の塔尾根としたのは以前に登坂した折りこの尾根道が色々と興味深いものであることを知っていたのと、大倉尾根が別名バカ尾根と云われるように、単調な登り一辺倒のつまらないものだったからだ。さらに云わせてもらうならこの三ノ塔頂上が360度さえぎるもののない、眺め抜群のものであったから。西に富士山、北は南アルプス、南には相模湾が望まれ、そしてこの三ノ塔頂上自体がなだらかな逆お椀型で、あたかも登って来た丘の上ならぬ天上の園のごとき観を呈していたからだ。これは知る人ぞ知ることなのである。しかし尤もこのような眺め云々などと云うこと自体、縦走の観点からすれば余計事、軟弱事なのであり、ルートが長くなってしまう分とも合わせ、縦走など始めっから無理なのかも知れない。この設定・想定の甘さがそもそも俺の人生そのものであるような気がしてならないのだが…。
 さて日曜の早朝のことだからバス停には誰もいないだろうと思っていたのがさにあらず、バス通りに出る路地の両側が家並で見えないが、すぐ先の、突き当たりのTの字を右に曲がったところにあるバス停からにぎやかな女性の声が聞こえて来た。一瞬で俺の顔がくもる。ひょっとして何かの行楽のグループが、分けても女性のグループがバスを待って居はしまいか。これは俺の一番苦手なシチュエーションなのだ。そう云う分けは、これ以前のページで縷々述べて来た通りのこと…。根暗の的のごとき俺が現れるならこのすぐ先にいるグループにとっては迷惑千万なことだろうし、第一いつもそういう想定をしてしまう俺自身にとって一番辛いことだった。どうしようか…バス停を変えようかとも思う。
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