自らを越えて

マドンナ登場

俺が住む大きな市営団地やまたバス通りの対面にある、こちらも一戸建形式の、やはり川崎市の市営住宅が広がるこの場所にはバス停が行く先別に4つほどあった。内2つは目の前のバス通りの対面にそれぞれ一つづつ、あと2つは通りの左奥にあるバスターミナル広場にあった。こちら側のすぐ目の前のバス停が武蔵新城駅行きで、ここから南武線・小田急線と乗り継ぐのが時間的にも運賃的にもベストなのだが、あと2つのバス停からも行けなくはなかった。しかしええい儘よ、そこにいるだろう女性グループが何者か知れず、まさかいっしょに丹沢まで行く分けじゃあるまいし、バス乗車の間だけ我慢すればいいだけのこと…などと自分に云い聞かせて俺は路地を曲がってバス停に出た。するとそこには3人の若い女性連れがいて、いずれも俺と同じリュックを背負った登山スタイルをしているではないか。内2人は知らなかったが残りの1人が俺にとってはとんでもない人だったのだ。その名前まで知っていた。名を大伴朗子(おおともあきこ)と云って俺と同じ高校に去年まで在籍していた俺より2つ上の先輩である。なぜ俺が彼女の名前を知っているかというと、それはズバリ彼女が我が校のマドンナだったからだ。才色兼備の(確か)女だてらに生徒会長を務めていた人で、そのルックスたるや輝くばかりと云う他はない。本人は否定しているそうだが皆がハーフではないかと噂するような、ハッキリ云って白人女性そのものの顔付きと身体つき(つまりナイスバディ)をしていた。その美貌と云い活発さと云い、俺がイカレテしまうパターンの最たる女子生徒だったのだし、事実我が校の(特に男子)生徒で彼女を知らない者はいなかっただろう。
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