自らを越えて

中学校での自己紹介

 さて、先に記した「末成り」「がり勉」という異名出来の事由がここからとなる。すなわち中学時代からのことで、中学に入学して初登校の日のこと、編入されたクラスで一人一人が自己紹介をすることとなった。名前のアイウエオ順に次々と席から立っては自己紹介をして行く。自分の性格とか得意な科目とかを述べるようにと担任教師の指示のもと、それぞれが各自各様に自らを述べて行く。しかしこんな場合誰でも、またどこでもそうだろうが、誰もが出しゃばり過ぎないように、皆から浮き立たないようにと、いたってそつなく、簡略に自己紹介をして行くようだ。いよいよ俺の番となった。皆にならってほとんど名前だけを云うくらに止めようと思いながら口を開く。どうせまたみんなから嫌われること請け合いの、みっともないカギっ子の口上だ…などと自嘲しながら口を開いたのだが、しかし…。
「えー、名前はむ、村田と云います。出身校は×××小学校で、ぼ、ぼくの性格は…」とぼくとつと語り出す。ところがここで奇跡が起こったのだ。あたかも自分の中に突然別の人格が入り込んだかのごとくに、口が勝手に以下のようなことを告げ始めたのだ。「えー、性格はいたって積極的な方で、人と話すのが大好きです。明るい性格だと思います。得意な科目は社会、音楽…」などと、信じられないようなことを歯切れよいアクセントまでつけて、力強く語りだす。自分で語っていながらその自分の口上を感心しながら聞いている俺がいた。こんなことは始めてのことで『おいおい、俺の中の誰かさんよ、勝手にそんなことを云わないでくれよ。俺は決してそんな人間じゃ…』と止めたいくらいだ。あとで実体がわかって笑われるのは俺だからだ。しかし俺の中の誰かは悠然と語り終って俺を席に着かせた。俺の顔は火照って赤くなっていただろう。「えーっ?あいつそんな陽気なやつだったっけ?」とささやく小学校の同級生たちがいたが蓋(けだ)しもっともなことではある。着席直後に俺はもうふだんの俺にもどっていて『ああ、これからいったいどうなることだろう?』と危惧するばかりであった…。
 ところが、である。ここからが奇跡だった。へー、あの子(もしくはあいつ)そんな子なんだ。それなら…とばかり、元同学校のやつらはともかく新たに同級となった連中からは一目も二目も置かれて接せられることになったのである。
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