自らを越えて

ついに大伴さんと…

やがて軽快なフォークダンス曲が中庭に響き渡って最初はぎこちなかったが不倫ダンスが、い、いや、三年女子と一年男子の踊りが始まった。で、というか…ところで、実は先に記した通りこういうダンスなどという代物には俺は至って門外漢なもので、本当はその時のダンスが何だったのかよく覚えていないのだ。こうして往時をふり返って記すとなると、その時のダンスがどういうものだったのかを思い出し、且つそれを調べる必要がある。と云うのも実は先にオクラホマミキサーと記したのだが、そしてそれはそれに違いないのだが、どうもダンスは2種目だったらしく、始めはコロブチカという踊りだったらしいことがあとでダンスの解説書を調べるうちにわかって来た。コロブチカというのは始め男女が対面して手を取り合いながらステップを左右前後に踏み、そのあと離れて両手を横に広げて回転をし拍手を一つ打つ…というもので、この一連の動作が大伴さんにあっては実にセンスがよく、華麗で、目に焼き付いていたので思い出したことだったのだ。しかしながら、さらに俺の脳裡に焼き付いて離れないのは、俺が彼女を脇に抱えるようにして踊ったということで、そしてそれならばこれはコロブチカではあり得ない。従って云えるのは途中で曲がオクラホマミキサーに変わったということなのだが…。うーん…それで当時をよくよく思い出してみると…。うーん…。そうだ!そうだ、そうだ、確かにそうだ。思い出した。確かに曲がコロブチカからオクラホマミキサーに変わったのだった。それも絶妙のタイミングで。なぜそうなったのかその経緯を記すと…などと説明するよりは、思い出した以上、往時を実況中継風に記す方がよかろう。では往時にもどる…。
 そのコロブチカを華麗に舞う大伴さんがパートナーを換えながらどんどんこちらへと、すなわち俺のもとへと近づいて来る。あと幾許もなく彼女と対面して手を取り合うことが出来る思うと、いま対面している相手の女子生徒など目に入らない。ついにすぐ右隣まで来、手を取り合っていた(俺以外の)いまいましい奴と手を離し、離れて柏手を一つ鳴らして、やっと俺の前に来たところでしかし朝礼台から「待て」がかかった。いきなり曲が止んでしまった。
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