自らを越えて
村田君、あなたが隊長よ
「よし、じゃ行こう。村田君、先行してちょうだい。あなたが隊長と思っていいのよ」といきなり来たので面食らったがしかし『え?俺が…?』と単純に鼓舞されないでもない。山登りでもなんでもその行程は概ね俺は1人で、このような複数での道行きは始めてだったし、まして女性群の中の男1人だし…さらにまして(こんな云い方あるのかな?)マドンナとの道連れとあってはなけなしの男気が鼓舞されない分けがない。俺は一声「はい」と云って鬼蜘蛛の巣がそこここに張っている暗いシダの葉をかき分け中腰で渓流へと入って行った。うしろからカナ、ミカ、大伴さんの順で俺のあとに従う。頭上にかぶさるシダの葉群はいくばくもなくなくなって視界が開け、小滝が連続する渓流を『ちょっと早いかな』と思うようなスピードで行くのだが、ただ俺は好んで渓流の水の中を歩いて行った。本来草鞋履きであるなら渓流から頭を出している小岩の上を伝って行くのが常套だ。しかしその小岩は水に濡れて苔むし非常にすべりやすく、このキャラバンシューズでは危険と思われたのでそうしたのだが、果して最後尾の大伴さんから「カナ、ミカ、できるだけ水に入らないで行ってね。岩の上を伝って行って」と声がかかる。「え?何で?〝隊長さん〟は水の中に入って行ってるよ」と云うカナに「いいの。村田君はキャラバンだからそうしてるの。いいから私の云う通りにして」と大伴さんが答え「ちぇっ、それだったらそう云ってくれよな。足がびちょびちょだよ」とカナが俺に小声で毒づく。一方すばやく指示に従ったミカが「あ、ホントだ。この方が全然いい。猿飛佐助になったみたいだ。ほらピョンピョンと…いくらでも早く行けるよ」と云いながら前に距離を詰めて来、カナが「だよな。隊長さん、もっと早く行ってくれよ」と俺をせかす。しかし大伴さんの「こら、カナ。余計なことを云うな。村田君にペースを合わせて行けばいいの」に「ちぇっ」と舌打つ。うしろのカナがやたらブーたれてやりにくいが無視して上って行く。