自らを越えて

おう、おう、いい眺めじゃねえかよ

滝の真下に立つと「いい?この落ちて来る滝の水には入らないで。そして出来るだけ濡れないようにして行ってね。(ふり向いて滝を見ながら)こっちの右側にガバがあるからまずとっかかりは右側から行くこと」「ガバって何ですか?」と聞くカナに「ガバというのはホールドのこと。つかみやすい窪みや突起があるっていうことよ。このガバを目安にしてこのあとの滝も登って行ってね。いい?…じゃ登って見せるからね。実際にやってみれば全然平気だからさ…」と云い残して大伴さんが登り始める。形のいい腰と(日本人にしては)長い足を惜しみなく見せながら滝の左岸(右左は滝の上流から見て右側を右岸、左側を左岸と云う。だから下から見れば逆呼称となる)の中途まで行くと我々にふり向いて「ここでね、こうやってステミングして…あ、ステミングというのはこうして足を伸ばして滝を跨いで対岸に移ることね」と云い、大股を開くと簡単に右岸へと移って見せた。「おう、おう、隊長さん。いい眺めじゃねえかよ」とカナが余計なことを小声で俺に云う。しかし蓋し云い当てズバリなのだが。ぜんたい俺は女の子に話しかけることも出来ないいくじなしのくせにこういった女性の身体への思い入れは人一倍あるようなのだ。相手がマドンナなら況や…をやということである。そのカナに〝本当の〟隊長から声がかかった。「じゃカナ!つぎあんたから行って」「アイアイサー」と答えてカナが滝壺に入る。「村田君、下に立って見てあげて」「はい」とカナに続き滝壺に入る俺。その俺に「見るなよ」と一声残してアッと云う間に軽快に大伴さんと同じ動作を成し遂げてみせるカナ。大伴さんの脇に立って余裕気に俺とミカを見おろす。「すげえ。よし、じゃあたしも…」ミカが登り始めるが1メートルほど行ったところで足をすべらせ下に落ちる。俺は思わず手を伸ばしてミカのお尻を支える羽目となった。「アチャー」と頭上でカナ。「ナイスカバー」と大伴さん。「サンキュー、村田うじ」と礼を云ってから今度は失敗しないように慎重に上りミカも滝の上に立つ。思わずも掌にミカの柔らかいお尻の感触を得て顔を赤らめる俺に「よし。じゃ村田君。待ってて。いま私が降りるから」と云って降りようとする大伴さんに俺はあわてて「い、いいです。いいです。平気です、俺は。こんな滝、登り馴れてますから」とこれを制す。
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