自らを越えて

人(女?)見知りする村田君

アップリケなんて全然知らないが見ればとても可愛らしく、よく出来ている。てっきり最初からリュックに付いているもんだと思っていた。カナの素直な習得性と云い人にはそれぞれ見かけによらぬ一面があるもんだ。人との交際一切なしという俺であったればこその初認識であった。次に指名されそうなカナが機先を制して「そうなのよ、隊長さん。このミカとは幼馴染でさ、この子小さい時から気が弱いもんだからあたしがずっとカバーしてやってたの。誰かに泣かされてたらそいつをあたしが泣かせたりして…ふふふ」だからあたしを舐めんなよとでも云いた気なカナは「ちょっと失礼。おおうめえ」とばかりリュックから取り出したお握りを頰張ってみせる。「これなのよ、村田君、この子は。かなり突っ張りっ気があるの。お握り食べ出したから代りに私が云ってやるけどさ、中学時代なんかかなりグレてて、お父さんやお母さんに散々迷惑かけてたの。な?カナ」フォローする大友さんに『うんうん、そうそう』と鷹揚にうなずき、あとは任せたとばかりお握りを食べ続けていっかなそのあとの言葉を続けようとしない。それに返すようにこちらも鷹揚にカナにうなずきながら「それでこの子の趣味はなんと空手で…」と大伴さんが俺に云うのに「それと喧嘩」と余計な茶々を入れる。まったく人を喰った女の子だ。『わかった、わかった、この野郎』とでも云うようにカナを一睨みしてから「とにかくこういう子」と俺に断定してみせたあとで大伴さんが「で、どう?村田君。この2人。どんな感じ?」と聞いてくるのだが「いや、その…」と言葉に詰まるしかない。女性3人との会話という初体験の場で〝絶対孤独男〟たる俺が何をか云わんや、また云うべきや、である。押し黙る俺を見ながら「だろうな…」とカナが一言。俺の形(なり)などとっくに見切っていると云いたげだ。この成り行きを面白がるふうにミカが「で、どう?村田氏(うじ)。私たちの感じは?…云うのが恥ずかしいのかな?」大伴さんの云い真似をしながらこちらは俺の無言をおちょくるようにカナと目を合わせながら聞いて来た。
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