自らを越えて

わたし、あなたに不思議な何かを感じる

「こら、ミカ。そんな生意気な聞き方をするな…と村田君が云いました」そうミカに俺の代わりに返事してから「いいわよ、いいわよ、村田君。急に聞いた私が悪かった。そのうち追い追いね。あなたの趣味とか好みとかを教えてちょうだいね」にこやかに俺をとりなしてくれる大伴さんだったがさらにひとこと意味深な言葉を付け加えた。「わたしね、あなたに不思議な何かを感じるのよ。たぶんあなたが普段からとっても大事にしている〝何か〟を。それがなんなんだか…わかんないんだけどね」そう云う大伴さんの姿に、かつて校内祭のフォークダンスの折りに彼女が俺に投げかけた、あの不思議な一瞥をよみがえさせられた。あの時の大伴さんの目はいったい何だったのか?そしていまその大伴さんが奇しくも口にした、俺が持つという〝何か〟とはいったい何なのだろう?たった1回だけフォークダンスのパートナーにあずかったというだけの間柄でしかない俺に、大伴さんが本来何も感じようはずがないのだ。なにがしか感慨に沈まざるを得ない俺に「ドンマイドンマイ村田君。ふふふ。あんまり考え込まないでちようだい。わたし余計なことを云っちゃった」と云いながら俺のそばに寄って来てにこやかに俺の肩を叩いてくれる。そのタッチに、間近で仰ぐ大伴さんの顔に、人が感じる以上に多大なフィジカル効果をいただく俺だった…。

PS:ここでちょっとだけスペースを拝借して、次の章のプロフィールを紹介して置きます。
この章は村田君にとっては孤独な(しかし逆に云えば他人から傷つけられることのない、安全な?)心中での葛藤ではなく、具体的な人との関わり合いにおける顛末となります。しかし実はこれこそが村田君にとって最も必要とするものなのではないでしょか?あの悪夢の中で、夕暮の校舎の中から見た今にも沈まんとする夕日に、また校門を出て行こうとする同クラスの女生徒2人に向かって「待ってくれーっ!俺を置いて行かないでくれーっ!」と村田君は恥も外聞もなく叫びました。さあ、どうなのでしょうか?悪夢中ならぬ現実においては?いま目の前にその待ってくれていた人たちがいるのです。しかもその内の1人はマドンナ大伴さんです。彼女たちの支援を得て、村田君は自分の弱さや心中の黒い霧からの恫喝に逃げることなく(この願ってもない!)試練に向かって行けるのでしょうか…?さあ、以下第七章へとお進みください。
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