自らを越えて

おーっ!ギッブアップ!ギッブアップ!

心の、内面の違いなのかどうか知らないがとにかく「はい、カナと村田君、こっち見て。手を繋いだままこうやって外側の足をうしろに引いて…ほら、ミカ」「へいへい」「そう。それで外側の足を曲げてこうして引っ張り合う。はい、いっちに、いっちに…」と大伴さんの実技指導。「いててて…」大伴さんに引っ張られ気味のミカが声を上げる。「ちっ、しょうがねな」そんなミカをカナが笑い俺に「ほい、じゃこっちも行こうや」と合図したので俺たちも始めたがこっちはカナに引っ張られ気味だ。遠慮なく強く引くのに些かムッとして俺も力を入れたがカナは平気だ。いい根性をしている。「はーい、終了。じゃ最後の運動。今度はこうやって2人が背中合わせね(ミカの身体に手を掛けて背中を向けさせそれに大伴さんが背中をピタリと合わせた)。それで、はいミカ、両手を万歳して。それから相手の手首を摑んでこうして身体を前傾させ相手を背中に乗せる」「アイタタタタ…」「我慢しなさい。それで、こうやって膝を少し屈伸して相手を揺すってやる」「おーっ!ギッブアップ!ギッブアップ!」ミカの大袈裟さに俺もカナも思わず吹出した。「おめえ、うるせえな」ミカを背中から降ろしたあとで苦笑しながら大伴さんが一言「はい、そちらもやって」と促す。それで背中合わせにくっつくと「あんた、手を上げなよ」とカナ。俺を背に乗せるとさきほどと同じでこちらの具合いを慮ることもなく強引に揺らす。ちきしょう声を上げてたまるかと我慢したが人より身体の硬い俺であったので些かでも応えた。今度はこっちの番だ。カナを背に乗せ強めに膝を屈伸したが「おお、いい気持ち」とカナは嘯く。しかしこうやってやられたらやり返すような性癖があることが自分でも意外だった。それならなぜあの時、花田一党から揶揄われた時や新河からもろに云われた時に、それぞれ云い返すなりやり返さなかったのだろうか?納得の行かぬことである。
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