自らを越えて
じゃまたな。by 竜二兄(あに)ぃとサブ
「村田君、先に進んで。このペースじゃ塔ノ岳がちょっと怪しくなって来たから…」大伴さんの指示をいいことに進みかけたが「おー、マブい女(スケ)だね。オートモさん」格下が囃し「ちょっと待てよ。まだ行くな」と兄貴分が俺を止めた。それに対し俺が云い返すべきところを聞き咎めた大伴さんが「ちょっとあんた、行くなとは何よ。垢の他人に指図しないでよ。村田君、いいからドンドン進みなさい」「おっと、待った!」2人の遣り取りに右往左往気味の俺。この顛末を放ったらかしにして行く分けには行かないし…。竜二とやらが「へー、さすがだね、オートモさん。あんたのことは2人から聞いてるよ。いつか御目文字したいと思っていたんだ。けどなオートモさん…」と絡んでくるのに「人の名前を変に伸ばして云うな!」ついに大伴さんが爆発気味に云ってしまう。俺は内心でくやしくてしょうがない、自分に!である。「おお、こええ。けどよ大伴さん、このカナとミカはよ、俺たちのダチなんだ。そのダチとこうやって偶然会ったのによ、少しぐらい話しするのがなぜ悪い?」「偶然とは思えないわね。話からすると…とにかく、私たちには登山計画というものがあるのよ。悪いわね。すぐに行かせてもらうわ。村田君」「はい…」もう吹っ切って行こうとしたその時に下から別のパーティが登って来た。「こんにちはー」20才前後の男ばかり4人のパーティである。大平橋手前の2メートル滝を登った地点で族と問答していた大伴さんが下から上がって来る一行に「あ、はい。こんにちは。すいません、ルートを塞いでしまって」と笑顔で答えてから「ほら、カナとミカ、村田君、登攀、登攀。私たちだけの沢じゃないのよ。行った行った!」と命令を下す。さても今度こそ俺は脇目もふらずに沢を登り出しカナとミカも「竜二、悪いな」「バーイ、竜兄ぃとサブ。大伴さん、恐いから盾突いちゃダメだよ」とそれぞれ云い残したあとで俺の後を歩き出した。ただ「おう、カナ。じゃ後でまたな」という竜二の最後の言葉と「オゥーッ!オートモさん、怖い!♫オートモさんの場合は余りにも冷たい(1969年のヒット曲、新谷のり子の「フランシーヌの場合は」を捩ったのだろう)♬ハハハハ」と大声で替え歌をしてみせるサブの野卑さが気になったが…。