自らを越えて
大伴さん、意気に感じました
それへ「ああ、はいはい」と答えてから「花田君、わたしたち一行にはちょっと複雑なものがあるのよ。悪いけど私たちを追い越してドンドン先に行って」と云う。「花田…」大伴さんの何某かの意向に気づいた和田が目配せするのに「ああ、そうか。わかったよ」と花田は答えたがそれで終わらず「じゃあ先に行かせてもらうよ…それにしても大伴さん、本当は1つだけ聞きたかったんだ。君ほどの学力のある人が何で大学へ進学もせずに、福祉の道を選んだのかを…さ。高校時代はついに君は俺に明かさなかった…」「それは…(ちらっとミカを見てから)色々とあってね。また別の機会に云うわ」と笑顔で答える。これが最終示唆と感じた花田がメンバーに「OK、みんな先に行かせてもらおうぜ。じゃ会長、ミカちゃん、お先に」と云い「和田…」と先立ちを促す。和田は「ミカちゃん、頑張ってね。大伴さん、意気に感じました」と万感を込めて伝えたあと眼前の小滝を力強く登り始め、そのままアッと云う間に曲り滝1、3、4メートルのてっぺんにいる俺とカナの元へと迫って来た。その力強さとスキルに圧倒される俺。「やあ、お先に」と俺とカナにハイタッチしたあとドンドンと上へと登って行く。さすが山岳部、俺たちの比ではない。同じような塩梅で次々と他のメンバーも通り過ぎて行き最後に花田が来て「君、村田君だろ?俺花田悟助の兄だよ。悟助の野郎、許してくれよな」と笑顔で云ってから俺の肩を軽く叩いてくれた。許すって…あの成績発表の折りのことを知っているのだろうか?と聞く間もなく他のメンバーを追って登って行ってしまった。しかしその手の感触に休憩場での大伴さんのタッチと同じようなフィジカル効果をもらう俺。その分けは…?恐らく、この先それを教えてくれるだろう俺たちの隊長から声がかかる。「OK、村田君行ってちょうだい!焦らなくていいからね。ゆっくりで」なぜゆっくりでいいのか分からぬままに俺は登攀を再開した。「悟助ってなんだよ?」と聞くカナを無視して。「ちえっ」と舌打ちして続くカナ。舌打ちの連続だ。この先絡まらなければいいがとも思うがそのカナにも不思議な存在感を感じ始める俺が居た。徐徐にではるが俺の孤独な心の中にも(〝我〟以外の)他人という存在が具体的な輪郭を伴って入り込み始めたようだ…。