自らを越えて

現れたる別格の〝俺〟

微笑みながら「どうしたの?ミカ。涙なんか流して。平気よ。わたし…本気で怒ってる分けじゃないから。ただちょっとね…」とミカの気をしずめようとするがミカはしゃくりあげながら「だって、あたし…カナと大伴さんがこんなことになるなんて…3人仲良くしたいのに…カ、カナだって喜んでた。大伴さんに何か教わるんだって。そ、それなのに、なんで…なんでこんなことに?…」と、か細い声で云うとあとは顔を両手で覆って声を上げて泣き出した。「ちょっと(どうしようか?)…」困惑する大伴さんに俺は「いや、そうなんだ、大伴さん。ミカさんの気持ちは俺もよくわかるんです。俺だって、その…(作り笑いをして)あそこのバス停で怖かったんです。この先みんなと一緒に行ってだいじょうぶだろうか?嫌われないだろうか?ってね。それで、あんな失礼な返事をしてしまって…でも再会したあとは俺の心の中で〝飛び込んで行け!みんなの中へ。逃げるな〟って声がしたようで…それで俺…あの、大伴さん。たぶん、ミカさんにも俺にも自分がふだんから居馴れている、居安さって云うか、心のポジションがあるような気がするんです。そこに住んでいれば安心だがしかし何か物足りない、進歩がない。俺で云えば何か黒い霧のようなものの中でうっ屈しそうになる。〝お前のような根暗者はいつも1人でいればいい。他人に、みんなの中に飛び込んで行っても傷つくだけだぞ〟って、そう黒い霧に云われるような気がして。へへへ。確かにそうしていれば安心って云うか、自分が傷つかなくてすむ。でもそれじゃ…」などと、いきなり饒舌となり滔々としゃべり出した。それへ「どったの?こいつ…い、いやこの人」とカナが云い、大伴さんはわずかに眉根をしかめて俺の状態を注視するようだ。気がふれたか?とは思わないだろうがあまりに急な俺の変化に、なにがしか異なものを見ているようだ。しかし俺の口は止まらない「…でもそれじゃいつかたまらなくなって爆発しそうになるんです。だから俺、それを直そうと思って、俺の心の中の黒い霧から離れようと思って、それで丹沢に来たんです。わかります?大伴さん。それにカナさん」などと物怖じせずに聞く始末だ。
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