自らを越えて

ちぇっ、俺は!ガタガタ震えたりして!

「いいの。カナ、なんて口の利き方をする!なんだったらおまえたちにさすらせるぞ」と大伴さんが云うのに「うっへー」「うーん、大伴さんのご命令なら…」としかめ面でカナが、〝親分〟に従順なミカが思惑げにそれぞれ云う。俺はと云えば無自覚状態にあったとは云えいったいどれくらい大伴さんにさすらせていたのかを思い、恐縮し、直ちに身を引いて土下座なりしようと思うのだが、意識がもどったいま一瞬でも大伴さんの手から伝わる温もりに、何よりその感触に身をゆだねてしまう。本当に心地よくありがたかったが俺は「あ、あの、大伴さん。も、もういいです。お、俺は知らなかった。その…こんなことしてもらってるなんて…ありがとうございます。もうだいじょうぶです」と云いつつ身を引く。「そう?だいじょうぶ?もう寒気しない?」「はい」俺は肩に掛けられたヤッケを取って恭しく大伴さんに差し出した。「はい、どうも」とそれを受け取りながら「村田君、君にはどうも鬱(そううつ)の気があるようね。でもいいじゃない?そうして躁状態になるのも。おかげで私たち3人、あなたの本音が聞けたわ。お互いの理解昂進、結構なことよ」と云うのに「そうそう。早い話が村田君〝大伴さん、好っき〟って分けだ。アハハ」「さいです。デミアン大伴のこと、しっかと承りました」とカナとミカがおちょくる。「うるせーな、おまえら。村田君は男女の話などひとことも云っていないわよ。だいたいデミアンって分かって云ってるのか?ミカ」「わっかりません」などと云うのに「あの…俺、大伴さんの云う通りで、その、時々こうなるんです。急に饒舌になって、なんかこう一気にしゃべってしまう。でもそのあと気負い過ぎた反動と云うかなんと云うか、急に身体がふるえ出したりして…へへへ。見っともないったらありゃしない。臆病者みたいで」と自嘲気味に云う俺は、やはりカナとミカが癪にさわるのだし、何より大伴さんの手前少しでも意地を見せたかったのだ。まったく、ガタガタふるえたりして、もう!…ということだが、いまさら遅いか?
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