自らを越えて

欲情は勘弁…なにせマドンナだ

「だいじょうぶよ、村田君。誰もあなたを臆病者なんて思ったりしないから。ただね、ちょっと物怖じし過ぎるし、おとなし過ぎるかな?それだからあなたの云う孤独におちいってしまうのよ。ね?さ、元気出して!」そう励まさられれば俺は嬉しい。こいつは異常だと、もうすっかり3人から見限られ愛想をつかされたと思い、この先の行程が思いやられていたのだから。「ふるえが来たのもきっと冷たい水に足を漬け過ぎたせいでしょ。どう?かかとの痛み引いた?」いまさらのように足のことを思い出し俺は右足を滝壺から引いて痛みを確かめる。すっかり冷えていて手で揉むかぎりではそれほどのことはないようだ。「はい、もうだいじょうぶみたいです。いま靴を履きます」と云って傍らに置いた登山用靴下とキャラバンシューズを履く。立ち上がろうとするのに大伴さんがすばやく自分の肩を俺の右脇に入れて介助してくれる。本当に気の利く人だ。ありがたい人だ。恐れ入りながらも欲情してしまうのは勘弁してほしい。なにせマドンナだ…。
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