自らを越えて
全員、登頂成功!
ついにミカの顔が滝上に現れた。しかしオーバーハングへの実感に恐怖感が隠せない。大伴さんは手を差し出すのは容易だがあえて「ここよ、ミカ。ここを右手で掴んで。届くでしょ?」と俺同様にホールド箇所を示した。最後まで1人でやらせたいのだ。「はい」と真剣に一言を云ってミカはホールドを右手で掴むと左手を滝上の地面に載せて一瞬目を閉じた。大伴さんは近くに寄っていつでも引っ張り上げる体制を取る(ミカの左手側に身を近づけた不肖・俺も同様だった)。「えいっ!」と掛け声もろともミカが両手に力を入れて上半身を滝上に腹這わせた。そして右の膝を載せ懸命に滝上に這い上がろうとする。この時下からミカの草鞋履きの左足裏に手を当ててカナが身体を押し上げようとしたがそれへ『いい!最後まで一人でやらせてあげて』とばかりに大伴さんが首(こうべ)をふってこれを制止した。「頑張って!ミカ。あともう少しよ!」思わず俺も「頑張って!」と声を上げていた。非力な両腕に筋を立てて左膝も滝上に載せるとミカはついに富士型の滝を自力で制覇した。息を吐きながら「えへ、えへへ」と両膝を着いたままで微笑むミカ。その両脇に手を差し入れて立ち上がらせと「やった!やった!ミカ!」と大伴さんがこれを抱きしめる。さすがに俺は眺めるだけでこれに加わらない。それより続いて上がってくるカナに目をやり(こちらは全然心配要るまいが)ホールド箇所なりを教えようとそばに寄る。しかしカナは「どけよ」と一言を云い俺をうしろにさがらせ、ミカを離して近寄る大伴さんにも「いいよ。心配要らないよ。さがってて」と同様を云う。件のホールドを掴むと猿飛佐助のごとくに一気に身を滝上へと躍らせる。さすがのカナであった。