自らを越えて

思わぬ嗾(けしか)け

しかしそのいま1人が「あたしは塔制覇の方がよかったなあ。仲良くばっかりじゃあ生きて行けないよ。弱ければ叩かれる、踏みつけられるだけさ。独りだけでも強く生きて行ける根性だよ。根性。こいつ…いや、この人(つまり俺)なんざあその反極みたいで…ウジウジしてさあ」と云うのに「こら、カナ。それが欠点だと云っているのよ。どうしてそう人を面前で貶すの?あんたの云うその根性の中身がそれならそんなもの…それに、今まで1人だけで生きて来た風に云うな。まったく。普段からお父さんやお母さんに盾突いてばっかりで…その矯正もかねるんだぞ、今日は」と早くも大伴さんが(山上の)垂訓をする。カナの額に青筋が浮かび「へん。そう云う朗子(あきこ)さんだって命令口調ばっかりでさ、あんたこそ普段から人を決めつけて強引なんだよ。勝手にメンバーを加えたり、ストレッチだのエールだの強引に人にやらせたりしてさ。自分の意向や指示がすべて正しいわけ?何がバレー部のエールだよ…」「まあまあまあ」必死にミカが止める。カーッと来た感じの大伴さんだったがF8の滝でのミカ(つまり泣き出した)を慮ったものかカナに云わずに「村田君」と俺に話をふって来た。ドキンとする俺。「村田君、あんたも少しは反論していいのよ。云われっぱなしじゃくやしいでしょ?カナの云い分にも少しは理があるんだからね。ただ黙ってりゃいいってもんじゃない」さきほどの〝晴れがましくなった気分〟はどこへやら。見る間に心が小さくなって行くのを感じる俺だった。マドンナがマドンナでなくなり小鼻を膨らませた傲慢な女性とさえ感じてしまう。こんな一言でさえそうなるのに、もしカナへの云い方を俺が受けたらいったいどうなるんだろう?ひょっとしてマドンナが鬼女に見えるかも?間違いないのはもしそうなったら一目散で〝相棒〟のもとへ逃げ帰るだろうということだ。
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