自らを越えて

村田君の必死の抗弁

例の、花田一派から被った辱めのあと『いいか?お前は他人との交誼など出来ない人間なんだ。そもそもだ、あんな連中と交わる必要があるのか?ああやってつるんでは人をいじめたり、小馬鹿にする連中なんぞ〝お前は〟相手にするな!1人でいればいい!』と語りかけて来た心中の黒い霧のもとへと、である。俺はそれが嫌だった。だからこそこうして丹沢に来たのだし、結果更生への試練の場を与えられているのだ。俺はつばをひとつ呑み込んでから「あ、あのカナさん…」と些かでも物申そうとするが「なんだよ?!」だけで縮こまる。しかし『ここだ。今だ。ここで逃げては…』と懸命になって「あの、お、俺は…俺は…」と必死に言葉をつなぐ。カナの青筋がぴくぴくと動いている。
「俺はその…1人でも生きて行けるというその、こ、根性のことなんだけど…実は俺、その見本みたいな人間なんだ。その根性…かどうか知らないけど、普段の、が、学校生活ではいつも1人でね。それでも俺…」「それでもどうしたのさ?そんなものはあんたがただの根暗で、誰にも相手にされないってことでしょ?」「あちゃー」とミカが絶句する。大伴さんはと見ればこちらは無言のままだ。ウンウンとうなずきさえもして視線を俺に向け俺の返事をうながすようだ。俺は「うん、そうだけど…でも例え誰にも相手にされなくても、その、逃げずに、学校に通っているんだよ。本当は嫌で嫌でたまらないんだけど、その、変に意固地になってさ、へへへ。こんな、みんなに相手にされてないっていうことなんか、こんなもんヘッチャラだって…」「うーん(面倒くさいな)、だったらそれでいいじゃんよ。何が云いたいの?あんた」カナが突き放す。「うん、だから…その、君の云うその、つ、強さってなんだろうって思うんだよ。云い返したりケンカしたりすることを云うんだろうか…」「そうだよ!ぐちゃぐちゃ屁理屈ばっか云ってさ。相手にされなかったり無視するやつがいたら脅かしてやればいいじゃないか!あたしはさ、あんたみたいに自分の臆病さを隠すって云うか、云い繕うために、分けのわからないことを云うやつ、大っ嫌いなんだよ」
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