偽りのトリアーダ〜義兄弟の狂愛からは逃げられない〜
「こんな寒い日に、どうされたんですか?」

 婦人は、とても艶やかな声で、そして上品な佇まいでカルステンに話しかける。

「あー、いや、先程までちょっと飲んでて……。少し涼もうかと」

 嘘ではなかった。
 事実、カルステンの頬は赤みを帯びて熱を持っていた。
 しかし、婦人はそんなカルステンの胸の内を覗くように、事実を言い当てる。

「……もしかして、家に入れない事情でもおありですか?」
(鋭いな……!)
「いや、お恥ずかしい話……。ポポロムとケンカしてしまいまして」
「まあ、そうでしたの」

 深く事情は聞くまいと、婦人は朗らかに笑う。
 そして婦人もまた、深く詮索されたくはないと心の内で壁を作っていた。
 
「……もしよろしければ、少しの間、うちへ来ませんか?」
「えっ!?」

 突然の誘いに、カルステンは動揺した。
 今までに患者の婦人方に、食事に誘われたことは何度もある。
 しかし夜この時間、酒も入っている男を誘う理由は、飲み直すか或いは──。

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