偽りのトリアーダ〜義兄弟の狂愛からは逃げられない〜
 先生は泣そうな顔で懇願しながら、強く抱き締めて来る。
 上からのし掛かってきて、息が苦しい。
 ──昔から。
 私が知らないところで、先生が見ていた可能性を考えると、ゾッとする。

「あんなに惹かれあったのに……あんなに……」

 ──惹かれあった。
 それは……先生が説明してくれた“アトラクター現象”ではないかとさえ思ってしまう。
 記憶を失ったままの方が良かった?
 先生はそう思っているかもしれない。

「何が、足りない……? 何が不満なんだ……!?」

 ──足りないとか、不満とか。
 そういう問題ではなかった。
 自分自身に嘘がつけなくなっただけなのだ。

「先生、離してください!」

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