偽りのトリアーダ〜義兄弟の狂愛からは逃げられない〜
「記憶が戻ったので、帰ってきました」

 そう言うと、お兄様は一瞬だけ驚いた顔をした。
 けれども、それはすぐに元に戻った。

「そう、か……」

 お兄様はスーツの上着だけ脱いだが、こちらに近づいてこようとはしない。
 小さくため息をついて、私の顔色を窺うようにこちらを見た。

「リア、何故戻ってきた?」
「え? ですから、記憶が戻ったから……」
 
「そうだ、記憶が戻ったからこそ不思議なんだ。リア、俺はおまえを傷つける事しかできない。ここにいても、おまえの負担になるだけだ……」

 ああ、そうか。そんな風に感じてしまうのか。
 救いようのないこの関係を、お兄様はずっと悔いてきたのかもしれない。

「そんな事はありません。私は望んでここに戻ってきたんです」

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