偽りのトリアーダ〜義兄弟の狂愛からは逃げられない〜


「行ってきます、お父様お母様」

 春の陽気に眠気の誘われそうな4月。今日から、大学の夏学期が始まる。
 私は、毎朝亡くなった両親の遺影に手を合わせ、挨拶をしてから出かけるのが習慣だ。
 両親と言っても、本当の両親ではない。いわゆる養父母だった。
 養父(ちち)ダニエルと、養母(はは)レナーテ。二人はとても仲の良い夫婦だった。
 養父は数ヶ月前に流行病(はやりやまい)で、養母は、6年前に事故で亡くなった。
 20年前の戦争の最中(さなか)、ゴンドル族の私は、森の中に放置されていたところを養父に拾われた。敵対していたゴンドル族の赤ん坊であるにも関わらず、両親は私を育ててくれた。
 それ故、早々に本当の娘でない事を知らされたが、私は養父母を本当の両親のように思っているし、ここまで育ててくれて感謝している。

 リビングにある鏡で、外見の最終チェック。
 ササッと簡単に済ませて玄関に向かおうとすると……。

「待ちなさい、リア」

「お兄様……」

 私を呼び止めたのは、義兄(あに)のアルフレッド。
 亡くなった両親の実子で、私より4つ年上の24歳。国内ではそれなりに名の知られている企業に勤めていて、毎日忙しそうにしている。お父様譲りの紺色の髪に、サファイアブルーの瞳。ご近所の奥様方からは、イケメンであると密やかに言われている。
義妹(いもうと)の私から見ても、クールで優しい人だ。

 だけど……


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