偽りのトリアーダ〜義兄弟の狂愛からは逃げられない〜
「彼は、僕の患者さんなので、病人を簡単に逮捕してもらっちゃ困りますよ〜」

 表情はにこやかだったが、とても強い圧を感じた。
 先生は、「怪我人」ではなく「病人」と言った。そちらの方が都合がいいのかもしれない。

「それに、ゴンドル族の扱いについては、ダニエル氏が遺した書簡により規制が緩んだはずでは?」

「……父さんが!?」

 そういえば、父が逮捕される前、そのようなことを言っていた気がする。

「それは、まだ正式な決定ではない! 審議中だ!」
「でも、審議中にしろ国民の意識が変わったのは確かです。ヘタに逮捕すると、国民の反感を買いかねませんよ」

 ポポロム先生とディルク刑事の口論が続く。

「ぐっ……。そもそも、よくゴンドル族を庇えるものだ。彼らはとても粗野で野蛮だと聞く」

 その言い分にカチンと来て、俺も口を挟んだ。

「……それは、戦争中に政府やマスコミが流したプロパガンダでしょう。ゴンドル族全てがそうとは限りません。また、逆に人間にも同じ事が言えます」
「ふん……。それは、弟さんの事を言っているのかな?」

 嫌味に対して、嫌味を返された。

「まあ、いい。今は目下の事件だ。それで、テオドールさんは、今どこに?」
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