偽りのトリアーダ〜義兄弟の狂愛からは逃げられない〜
 リアさんは、キョトンとして、

「テオは、とても明るくて、いい子ですよ」

 と、答えた。
 アルフさんは険しい表情になり、叔父は困惑していた。
 僕は、なんとなく予想していた。先ほど泣き出すまでのリアさんの表情が、明るすぎたからだ。

「現実逃避、もしくは解離性健忘か……」
 
 叔父が説明してくれた。

「リアさんの中では、都合の悪い事はすべてなかった事になってしまっています。叔父をダニエルさんと思い込んでいるのもそのためでしょう」

 都合の悪い事は。
 リアさんは、先ほどアルフさんに恨まれていたことは覚えていた。
 それはつまり──。

 考えたくない、と僕は小さく首を横に振った。

「先生、どうしたらいいですか?」
「こればかりは、なんとも……。何かのきっかけで思い出してくれるといいんですが……。とにかく今は、見守っていくしかないです」

 思い出したところで絶望的だ。最悪の場合、また心を閉ざしてしまうかもしれない。
 僕は、医者としても同族としても……リアさんを救いたい。


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