偽りのトリアーダ〜義兄弟の狂愛からは逃げられない〜
 最後まで言わせるなと、ディルクは目を逸らしうつむいた。
 ゴンドル族のために組織は積極的に動かない、動かせない。
 だが、それを報道すれば世間から大きく非難される。
 そのため、何も行動を起こさず、静かに世間から忘れ去られる──フェードアウトを望んでいる。

 カルステンはディルクの気持ちもわからないではなかった。
 ディルクは二十年前の戦争で妻を亡くしている。ゴンドル族にやられたのだ。
 それ以来、ディルクはゴンドル族に対して嫌悪感を感じるようになっていた。
 自分がポポロムを匿ったこと、ダニエルがリアを匿ったこともディルクには言えなかった。
 しかし重要なのは、今生きている者を救うことなのだと、カルステンは考えていた。

「リアちゃんはな」

 ぐっと喉の奥から詰まるような声が出た。

「ダニエルが命を賭けてまで守ろうとしたんだ。この先の……未来に賭けてんだよ!」

 今テオドールを捕まえておかないと後々大変なことになる。リアを預かる期間がチャンスだと、カルステンは睨んでいた。
 ディルクは、「話だけは聞いてやる」と足を組み直しタバコの火を揉み消した。

「ったく、一体何を企んでる?」
「犯人を罠にかける」
「はぁ!?」
「そのためには、何人か警察の協力が必要だ。力を貸してくれ」
「俺たちは組織だ。上の指示には逆らえない」
「……頼む」

 カルステンは深く頭を下げた。
 こんなにも懇願したのは、いつぶりだっただろうか。

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