元風俗嬢の愛海ちゃん、ストーカー御曹司とせふれになる。
10 夜の展望台
病院を出たのは夜8時頃で、侑人は愛海を見て笑う。
「家に帰る前に、ちょっと出かけようか」
侑人は愛海を車に乗せて、車を坂道の下に走らせた。やがて大通りに出ると、南に向かってオフィス街に入る。
引っ越して以来、愛海はこの辺りにはまだ入ったことがなかった。けれど遠目に見ていたタワーに、愛海ははしゃいだ声を上げる。
「すごい。下から見るともっと大きく見える。何階くらいあるんだろ?」
「ビジネスフロアは五十階まであるけど、展望台はもっと高いよ」
「うわぁ……目が回りそうだね」
侑人は隣の席でふと笑って愛海に言う。
「ツインタワーに行ってみる? 食事もできるんだよ」
「えっと、でも」
「怖い?」
愛海は口ごもって小声でつぶやく。
「私の部屋見て、わかっちゃったと思うけど……あんまりお金、ないんだ」
「会員制ラウンジだから。愛海ちゃんは一緒に入るだけでいい」
愛海はそれを聞いて、ほっとするより申し訳ないような顔をした。侑人はその表情に気づいたようで、眼前に迫ったツインタワーを見やりながら独り言のようにつぶやいた。
「お金じゃ買えないもの、愛海ちゃんは持ってるけどな」
愛海は不思議そうに首を傾げたが、侑人は愛海に目を戻して言う。
「待ってて。開けるから」
侑人は自ら車の扉を開いてくれて、愛海は侑人に手を引かれながら外に歩み出した。
「うわぁ」
ライトアップされたツインタワーは、まるで光る貴婦人のように裾を広げて建っていた。愛海はその姿にみとれて、侑人はそれを微笑ましそうに隣で見ていた。
愛海が自分から歩き出したのを見計らって、侑人は隣を歩き始めて言う。
「低層から中層階はビジネスエリアなんだ。ラウンジは高層階だけど、直結のエレベーターがあるよ」
侑人は慣れた道のようにいくつかに分かれた入口から一つを選び取ると、愛海の手を引いて中に入った。
そこはホテルのグランドフロアーに似た、一般の入り口とは違う様子のところだった。カウンターからコンシェルジュが自ら近づいてくると、侑人の顔をみとめるなり言う。
「那鳥様ですね。こちらへどうぞ」
愛海は驚いて侑人を見上げたが、彼は普通のことのようにうなずいて、奥の入口からエレベーターへ通された。
「みてみて、夜景がきれいだよ!」
侑人の言った通り、それは高層階への直結のエレベーターだった。愛海はついガラス越しに映る景色にはしゃいだ声を上げた。
侑人はそんな愛海の肩に手を置くと、神妙に言う。
「そろそろかな。ここの景色には自信があるんだ」
エレベーターの上昇速度が緩やかになって、まもなく目的の階に着いたようだった。
そこに広がったのは、一面宝石を散りばめたようなパノラマの夜景。
「……夢みたい」
愛海は思わず笑顔になって、少しの間言葉もみつからずに立ちすくんでいた。
「家に帰る前に、ちょっと出かけようか」
侑人は愛海を車に乗せて、車を坂道の下に走らせた。やがて大通りに出ると、南に向かってオフィス街に入る。
引っ越して以来、愛海はこの辺りにはまだ入ったことがなかった。けれど遠目に見ていたタワーに、愛海ははしゃいだ声を上げる。
「すごい。下から見るともっと大きく見える。何階くらいあるんだろ?」
「ビジネスフロアは五十階まであるけど、展望台はもっと高いよ」
「うわぁ……目が回りそうだね」
侑人は隣の席でふと笑って愛海に言う。
「ツインタワーに行ってみる? 食事もできるんだよ」
「えっと、でも」
「怖い?」
愛海は口ごもって小声でつぶやく。
「私の部屋見て、わかっちゃったと思うけど……あんまりお金、ないんだ」
「会員制ラウンジだから。愛海ちゃんは一緒に入るだけでいい」
愛海はそれを聞いて、ほっとするより申し訳ないような顔をした。侑人はその表情に気づいたようで、眼前に迫ったツインタワーを見やりながら独り言のようにつぶやいた。
「お金じゃ買えないもの、愛海ちゃんは持ってるけどな」
愛海は不思議そうに首を傾げたが、侑人は愛海に目を戻して言う。
「待ってて。開けるから」
侑人は自ら車の扉を開いてくれて、愛海は侑人に手を引かれながら外に歩み出した。
「うわぁ」
ライトアップされたツインタワーは、まるで光る貴婦人のように裾を広げて建っていた。愛海はその姿にみとれて、侑人はそれを微笑ましそうに隣で見ていた。
愛海が自分から歩き出したのを見計らって、侑人は隣を歩き始めて言う。
「低層から中層階はビジネスエリアなんだ。ラウンジは高層階だけど、直結のエレベーターがあるよ」
侑人は慣れた道のようにいくつかに分かれた入口から一つを選び取ると、愛海の手を引いて中に入った。
そこはホテルのグランドフロアーに似た、一般の入り口とは違う様子のところだった。カウンターからコンシェルジュが自ら近づいてくると、侑人の顔をみとめるなり言う。
「那鳥様ですね。こちらへどうぞ」
愛海は驚いて侑人を見上げたが、彼は普通のことのようにうなずいて、奥の入口からエレベーターへ通された。
「みてみて、夜景がきれいだよ!」
侑人の言った通り、それは高層階への直結のエレベーターだった。愛海はついガラス越しに映る景色にはしゃいだ声を上げた。
侑人はそんな愛海の肩に手を置くと、神妙に言う。
「そろそろかな。ここの景色には自信があるんだ」
エレベーターの上昇速度が緩やかになって、まもなく目的の階に着いたようだった。
そこに広がったのは、一面宝石を散りばめたようなパノラマの夜景。
「……夢みたい」
愛海は思わず笑顔になって、少しの間言葉もみつからずに立ちすくんでいた。