君のいない明日を君と生きる
君がいる日常
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「紬、そろそろ湊斗くん迎えに来るんじゃないの?」
パンを食べながらテレビに流れる星座占いを見ていると、キッチンにいたお母さんに声をかけられた。テレビの左上に表示された時計はちょうど七時を伝えている。いつもならあと五分もすれば湊斗が迎えに来て学校に向かう時間だ。
「今日は一人だからギリギリに行くのー」
「まったく……遅れないようにしなさいよ」
「はいはーい」
適当な返事にお母さんはため息をついていたが、私は気づかないふりをしてスマホを手に取る。メッセージアプリを起動すると一番上に表示された湊斗のトーク画面を開く。
既読、付いてないな……
今朝、目覚めると湊斗から一件のメッセージが届いていた。深夜二時過ぎに届いていたメッセージは『明日遅刻する』の一言で、めずらしいな、と思うと同時に違和感があった。
今までも何度か、湊斗は遅れるから迎えに行けないと言うことはあった。その時は七時前に『ごめん!遅刻しそうだから先に行ってて!!』とスタンプもつけて連絡してくれていた。
昨日の夜に何かあったのかな……
湊斗とは高校二年になってから初めて同じクラスになった。クラス替えで親友の美咲と別のクラスになり一人で席についていたところ、一番最初に話しかけてくれたのが湊斗だった。
紺野湊斗、東山紬
名簿順で並ぶと四つ離れた私たちは四月、隣の席だった。
「おはよ!俺、紺野湊斗。よろしくね、紬さん」
第一印象はいきなり下の名前で呼んできた馴れ馴れしい奴。だが、人懐っこい笑顔をするから全然嫌な気がしない、そんな奴だった。
「よく名前知ってるね。紺野くんよろしく」
私と湊斗が仲良くなるのにそう時間はかからなかった。趣味が映画鑑賞と同じで一週間が経ったころには親友の次によく話す人と言う位置づけになっていた。
やがて、休日には一緒に映画を観に行ったり、美咲と湊斗の幼馴染の悠真くんも含めた四人で出かけたりすることも多くなった。
いつの間にかお互いの呼び名も、下の名前を呼び捨てに変化していた。
「いつもギリギリだな」
五月に入り新しいクラスに慣れたある日、朝のHRのチャイムと同時に席に着いた私に湊斗が言った。湊斗の言う通り、私はいつもHRにギリギリ間に合うか、間に合わないか。
「朝苦手なんだよね。早く起きても気づいたら時間ギリギリになってる……」
「じゃあ一緒に登校しようよ」
「え?でも……」
その後すぐ担任が来て登校の話は曖昧になったが、その日の夜『明日から七時五分くらいに迎えに行く』とメッセージがあった。お互いの家が徒歩十分の距離でいつも近くを通ることを何度か出かけた際聞いていた私は、特に断る理由もないのでその言葉に甘えることにした。
それからもう二か月が経とうとする今も、一緒に登校している。
きっと学校に少し遅れてきてもいつもみたいに元気に教室に入ってくるんだろう、と思いながら残りのパンを口に詰め込む。時刻は七時十五分になろうとしている。
『今日の十二位は……残念!いて座のあなた』
「えー私じゃん」
ラッキーアイテムを伝えるアナウンサーの声を聞き流しながら食器を下げる。
急いで家を出る準備をし、七時二十分。
一人で学校への道のりを歩いて行った。