一般生徒禁制!?男子だらけの『月虹学園・生徒会花園寮』


 校舎を出て暫く庭を歩き続ける。
 鷹宮先生は色々な雑談を振ってきてくれるけれど、正直私の心情はそれどころではない。

 1人笑いながら喋っている鷹宮先生に申し訳なさを覚えながら、ひたすら背中を追いかけた。

 すると目の前に何の前触れも無く大きなゲートが現れ、そこには“一般生徒禁制・一切立ち入り禁止”と書かれた看板が立っていた。中等部から通い始めて今年で4年目だけど、こんな場所があったなんて初めて知った。


「さぁ、高辻さん。この先が『生徒会花園寮』だよ。中等部と高等部の生徒会執行役員のみが踏み入れることのできる世界さ」

 そう言って鷹宮先生がゲートにタッチすると、自動で開き始めた。

「……」

 改めて思う。月虹学園って……凄いな……。

「ほら、行こう」

 手招きされて敷地に踏み込むと、一気に空気感が変わった気がした。寮へと続くアプローチの両側には沢山の花々が植えられており、しかも良く手が行き届いている。

 急に……何だろう。
 異世界に迷い込んだと言ったら大袈裟だけど、私の場違い感が凄い。


 中等部の寮を過ぎて少し奥に進むと、『生徒会花園寮・高等部』と書かれた看板が見えた。

 大きな一軒家と言ったところだろうか。
 妙に流れ落ちる汗が……止まらない……。


「ほら、到着。ここが君も住む『生徒会花園寮』だ。1人1部屋与えられ、キッチンやトイレ、お風呂などは全て共用となっているよ」

 ニコニコと微笑みながら寮の扉を開けて「どうぞ」と促してくれた鷹宮先生。中に入ると大きな玄関の先で、絶賛お着替え中の人が視界に入った。

「きゃっ!!」
「え……高辻さん!?」

 急いで服を着て身なりを整えるその人。『ドラムのエリート』生徒会監査2年生の矢神先輩だ。

 着替えが落ち着くと胸の前で両手を合わせて、申し訳無さそうに顔を歪めた。

「ご、ごめん! 日頃は男だらけだからさ。どこでも着替えてしまう癖が付いちゃってて……」
「矢神くん。今度共用部で着替えたら罰金を取るからね」
「急すぎません!?」
「大事な従兄妹を守る為に、致し方なし。よし、高辻さん。部屋も案内しようね」

 半裸の矢神先輩に軽く頭を下げて、手招きした鷹宮先生に付いて寮の奥へと入る。

 大きな玄関の先に扉か4つあり、そのうち1つはLDK、もう1つは開けると更に扉が3つあり、洗面所、お風呂、トイレに分かれていた。
 そして残り2つの扉は個人部屋。今は久遠先輩と矢神先輩の部屋らしい。


 今度は玄関の横に据えられた黒い螺旋階段を登る。
 その先には扉が5つあって、1つはトイレ、残り4つは個人部屋だった。

 現在空きとなっている角部屋を見せてもらったが、1人で過ごすには申し分無い広さ。何なら、実家の自分の部屋よりも広いのでは? ……なんて、ついそんなことを考えた。


 因みにこの空き部屋が私の部屋になるとのことだった。


「高辻さん、この部屋の隣が僕の部屋だから。何かあったらいつでも訪ねて来てね」
「えっ、鷹宮先生が隣!?」
「『僕も一緒に住むこと』を条件に許可を得たと言ったでしょ?」
「……」
「当然、お隣だよ。なぎちゃん?」


 意地の悪そうに笑った鷹宮先生に、ついドキッとしてしまった。

 従兄妹とは言え、やっぱりイケメンだよ。この人。
 それは認める!!

 キラキラオーラを纏ってこちらを見ている鷹宮先生。
 何だか悔しくなってきた私は、小さく頬を膨らませて鷹宮先生を睨んだ。


「隣なんて嫌だ!」
「……そんなこと言わない。大体なぎちゃん、昔は『お兄ちゃんと結婚するー!』なんて言ってくれてたじゃん。隣同士、擬似結婚みたいで良くない?」
「はぁ!? そんな昔の話、掘り返さないでよ!! 全然良くないんだから!!」


 昔は本当に大好きだった。
 13歳も年上で、優しくて、沢山甘えさせてくれて、カッコ良くて。

 というか、本当は今でもお兄ちゃんのことが好き。

 ただ……ここでは先生だから。
 従兄妹ということも他の人から知られたくなくて、一線を引いているだけ。


「鷹宮先生、花園寮内で結婚云々言わないで下さい。風紀が乱れます」
「ん?」

 突然聞こえた第三者の声。
 階段を上って姿を現したのは、『プログラミングのエリート』生徒会会計2年の久遠先輩。先輩はカチャッと少しズレた眼鏡を直して、鷹宮先生の方を向いた。

「あれ、久遠くん。君の部屋は下じゃない」
「玄関入ったら不穏な声が聞こえて来たので、様子を見に来た次第ですよ」

 久遠先輩は風紀委員会の委員長も務めている。
 そんな彼だからこそ、わざわざ駆け付けて来たのだろう。ただ、会話1つで風紀の乱れって……ちょっとだけ大袈裟な気もするけれど、そこは黙っておく。

「高辻さんは、いつから入寮ですか?」
「あ……こ、今週中……ですかね」
「そうですか。楽しみですね」

 分厚い眼鏡の奥で、そっと優しく微笑んだ久遠先輩。
 いつもキリッとしている先輩からは想像出来ない微笑みに、思わず心臓が飛び跳ねた。

「さて、下に降りよう。大まかな説明はこのくらいだよ」

 階段を降りる先生の後ろをついて行くと、不意に振り返って手を差し伸べてきた。「エスコートするよ」な〜んて、鷹宮先生ったら柄にも無いことをする。けれど、それにまた心臓が飛び跳ねてしまうのだから、私も大概だ。

「……鷹宮先生、従兄妹ですよね。それは不味いのでは」
「そうだよ、従兄妹だよ。でも、不味いの意味は分からないね。従兄妹同士の結婚は、法律で禁止されていない」

 ニヤッと笑う鷹宮先生。
 その意味深過ぎる言葉が理解できなくて頭がクラクラした。

 大体、今日1日に得た情報量が多すぎて処理しきれない。


 私はニコニコ笑顔の鷹宮先生にエスコートされながら1階に降り、その後『生徒会花園寮』を後した。



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