一般生徒禁制!?男子だらけの『月虹学園・生徒会花園寮』
Case2・一ノ瀬礼央
生徒会にやって来て早2週間。
引っ越しを終え、荷解きも毎日少しずつ行ってきた結果、やっと寮生活を送る準備が整った。
「高辻さん、明日から入寮って?」
「そうです。一ノ瀬先輩、宜しくお願いしますね」
「こちらこそ。楽しみだよ」
放課後の生徒会室。
私の初仕事となる生徒総会が間近に迫っており、その準備の為に『バドミントンのエリート』生徒会会長3年の一ノ瀬先輩と久遠先輩の3人で部屋に籠っていた。
「今日、九条先輩と矢神先輩は?」
「九条はピアノコンクールの審査員をするとかって、ポーランドに行ったよ。矢神は全国ドームツアー中のバンドのサポートで北海道だ」
「す……凄い」
やっぱり異次元だ。
改めて普通とは違う凄い人達が集まっているのだと実感させられる。
来週は一ノ瀬先輩が、バドミントンのアジア大会に参加するため中国へ行くらしい。次元の違う凄い人たちの中に居る私なんて大したこと無いなぁなんて、つくづく思う。
「さて、生徒総会だけど。生徒から上がった議題3つのうち、職員会議で2つほど通して貰った。今年はその2つについて議論する」
「はい」
1つ目は『更衣期間を無くして欲しい』と言うもの。夏でも長袖を着たい生徒からの意見らしい。腕を出したくない、日焼けをしたくなど理由は様々らしいが、前々から生徒間ではそういう話はあった。ついに議案として取り上げられたというところだろうか。
2つ目は『ジェンダーレス制服の導入を検討して欲しい』と言うもの。女子の制服がスカート一択なのは、私が中等部の頃から問題にはなっていた。それが高等部では議題として上がってきたみたい。
「このジェンダーレスについては、女子生徒のズボンが主な検討事案だと思っていたのだが、どうやら男子生徒のスカートという逆の検討事案もある。デリケートな問題が故に、生徒会としては慎重に総会を進行して行きたい」
「そうですね。2年の間でも男子のスカート問題は度々話になります。議題に上がって来たこと、嬉しく思いますね」
久遠先輩はホワイトボードに議案を書いて、眼鏡をクイッと押し上げた。しかし、テレビでもまだそんなに話題とならない事が議案となる月虹学園は流石だ……としか言いようが無い。
一ノ瀬先輩は「よしっ」と呟きながら小さく手を叩き、椅子から立ち上がる。そして「じゃあ、議長くじをしよう」と言って棚に置かれている謎の箱を取り出した。
生徒総会の進行をする議長は基本立候補制なのだが、当然立候補する生徒なんて居ない。だから、生徒会の方で事前に議長を決めておく。その決め方がくじなのだ。
対象は3年生。この箱の中にはクラスと出席番号が書かれており、一ノ瀬先輩が引いた紙に書かれた番号の人が議長に指名される。
「しっかし……何度引いても“俺の出席番号”が出てくるんだが……。132枚あって、なんで俺は俺の番号を引くんだ……!?」
生徒会執行役員は議長にはなれない。故に、生徒会に所属している人の番号の場合は引き直しになるのだが……。一ノ瀬先輩は何度やり直しても“自分の出席番号”ばかりを引いてしまっていた。
その様子を久遠先輩と眺めながら思う。何度も引くこと自体凄いけれど、その紙を元に戻さなければ解決するのでは……と。