一般生徒禁制!?男子だらけの『月虹学園・生徒会花園寮』
生徒会の活動終了後、月虹学園内のシステムに不具合が出たと連絡を受けた久遠先輩は、職員室に向かって行った。
一ノ瀬先輩と2人になった私。
花園寮に帰ると言う先輩と一緒に、明日の入寮準備をする為に私も寮に向かった。
先輩と2人で歩く校庭。
既に辺りは暗くなっており、生徒の声も聞こえてこない。
小さな虫の声だけが、静かに響いていた。
「そういえば、高辻さん」
「はい」
唐突に私の名前を呼んだ一ノ瀬先輩。
チラッと横目で私を見ながら、言葉を継ぐ。
「高辻さんはさ『作画のエリート』でしょ。知識不足で申し訳ないんだけど、作画でどういう功績を残してきたの?」
「…………」
不自然に口角だけを上げて、先輩に引き攣った笑顔を向ける。
そう、私は『作画のエリート』だ。
キャンバスに油絵具で絵を描くのが得意。デッサンのようにモノの形や陰影をとらえて描く。
昔から絵を描くのが大好きだった私。
作品の売値は最高50万円。最近はイギリスで個展を開いたくらいには、それなりの成果を積み重ねている。
ただ「高辻渚沙」ではなく、「天竜寺美琴」というペンネームで活動をしている。だから私の周りの人に知られたくなくて、功績に関しては一切黙秘をしているのだ。故に知っているのは学園の先生たちだけ。
でも……。おかしいな。
それでも必要な時は最低限の情報提供を行うことに従うと、誓約書を書かされているんだけど……。
生徒会はそれに該当しなかったのかな?
「……一ノ瀬先輩、ご存じでしょう。鷹宮先生が私の名前を出した時、どういうエリートかを事前に知らされていると思うのですが。私のプロフィール、ご覧になっていますよね?」
「うん、見たよ。“絵画による数多の実績・活動拠点全世界”って、凄く簡単に書かれていたんだ。だから、詳細が知りたくて聞いたんだ」
「…………」
思った以上に凄くアバウトだった。
むしろ、そんなふんわりとした情報で良く私を生徒会に入れてくれたと思う。鷹宮先生の紹介だからかな?
「……」
何も言えずに黙っていると、急に一ノ瀬先輩が私の手を握ってきた。その手から伝わってくる体温にドキッと心臓が飛び跳ね、徐々に頬が熱くなる。
先輩のその行動に驚き固まってしまうと、一ノ瀬先輩は子供のような笑顔を浮かべた。
「言えないことを無理して聞くのも悪いね。ごめん、ただ……君のことをよりもっと知りたいと思っただけだったんだ」
「…………」
スッと手を離し、先輩は寮を目指して歩き出す。
……いくら、生徒会長とは言え。
やっぱり「天竜寺美琴」のことは言いたくない。
私はただ「すみません」と小さく呟いて、先行く先輩の背中を小走りで追いかけた。