繋いだ手は離さない
 どうやら、愛理香は美しいものには非常に興味があるようだ。


 それに、出会ったばかりのボクと彼女は怖いぐらい、時として奇妙にすら思えてしまうぐらい息が合っていた。


 一緒にいるだけで、互いの考えていることが手に取るように分かってしまう。


 ボクたちが成熟した恋人同士として付き合っていける、端緒(たんちょ)のようなものが見えつつあった。


 ボクと愛理香が分かり合えている一番の理由は、実は互いに育った、一際歪(いびつ)な家庭環境が原因だったのだ。


 実はボクのオヤジは典型的なアル中で、朝から日本酒や焼酎を飲んでは、母に暴言を吐き、殴る蹴るの暴力まで振るっていた。
  

 そのあまりの度のひどさに、母はとうとう離婚届を突きつけた。


 ただ、自分の立ち上げた事業が失敗して、会社自体が離散してしまったオヤジは、面白くないのだろう、後は判を押すだけとなっていた書類を丸めて捨て、それから固めていた拳で母を何度も何度も繰り返し殴りつける。


 脇で見ていたボクも妹も、ただただ怯えていた。


 母の右頬にくっきりと青痣(あおあざ)が付いていたのを、ボクはおそらく一生忘れられないだろう。
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