繋いだ手は離さない
 ボクも愛理香も歩きながら偶然にも同じことを思った。
 

 もうすぐ社会人だなと。


 そしてボクたちは各々いろんな意味での困難を抱え込みながらも、二人でやっていける気がしていた。


 正直なところ、あまり怖くはないのだ。


 ボクも愛理香も華やいだビーチに座り、焼けた砂浜に腰を下ろすと、遠い海を見つめ続けた。


 彼方には鮮やかな水平線が浮かび、ボクたち二人はそれに目を向けながら、ゆっくりとビーチに佇む。


 二人で一緒にいると、不思議と恐れる気持ちは消えていく。


 将来に対し、不安が全くないと言えば嘘になるが、ボクも愛理香も指針が決まっていたので、後はそれに向かって全力で進むだけだった。


 それに考えてみれば、彼女は院に進むわけだから学生の延長なのだが、ボクの場合、バイトで家賃や食費、光熱費などの生活費を全額稼いで、それで合間に原稿を書くという環境になる。


 創作する人間にとって、ボクのようなアルバイターは絶好の身分だろう。
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