繋いだ手は離さない
 夢を追いかけて、それを掴もうとするのだから……。


 ボクも愛理香も焼けたビーチに佇み、時折買ってきていたスポーツ飲料のペットボトルを傾けながら、ゆっくりする。


 普段からものを考えることばかりをしているボクにとって、こういった広い海を眺めるのは絶好の気分転換となった。


 二人で波間を見つめながら、夏がゆっくりとではあるが、着実に逝くのを感じている。


 ボクも愛理香もその年の夏を過ごした。


 大学生活最後の夏で、ボクたちは責任がなくても済む期間を送っている。


 モラトリアムというやつだ。
 

 今は死語になっている言葉なのかもしれないが、ボクたちは完全にフリーになれる時間を過ごしていた。


 蒸し暑かった夏が終わり、二人で揃って二〇〇八年の秋を迎え、ボクたちは充実した毎日を送っていた。


 愛理香の大学院の試験は後期の成績発表が終わった直後に実施される。


 留年し、卒業できる見込みがない学生を大学院側が門前払いにするためだ。
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