繋いだ手は離さない
 だが、愛理香にしてみれば、自分を産んだ母親が自身の倦怠(けんたい)に任せて、若い男と不倫するのだけは許せないようだったし、彼女はそれから母とは一度も会ってないらしい。


 お互いが複雑な家庭の事情を抱え込んでいたボクと愛理香は、付き合いながらも心に誓い合っていた。


 二人の間に隠し事は一切しないと。


 ボクたちはその取り決め一つで、上手くいくと思っていた。
 

 まだまだボクらは若い。


 エネルギーに満ち溢れている。


 それにどう考えても、先に逝(ゆ)くのは互いの両親で、ボクたちは取り残される。


 ただ、はっきりと決めていた。


 いいところも嫌なところも全部許し合いながら生きていこうと。


 そしてボクたちは目の前で舞い散る桜の花を見つめながら、心の奥底で思っていた。


 そう、決して離れたくはないし、離したくない。


 一度握った互いの手の温もりをボクたちは具(つぶさ)に感じ取っていた。
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