繋いだ手は離さない
 彼女は聞いている間中一切怒らずに、返って表情を和らげ、


「いっぱい我慢してたんでしょ?」


 とボクに向かって問いかけてくる。


 問われた方のボクが素直に頷いた。


 そんなボクに愛理香が近付き、ゆっくりと抱いてくれる。


 柔らかい腕が背中へと伸びてきたので、ボクもまだ幾分ぎこちなげに抱き返した。


 ボクたちは秋の肌寒さがあったからか、上から一枚羽織り、二人してベッド上で抱き合い続ける。


 秋の一夜が更けていき、また新たな一日が訪れた。
 

 ボクは一段と冷え込む朝、ベッドから起き出し、恋人の部屋なのですっかり勝手を知っていたからか、眠たい目を擦りながらキッチンでコーヒーを淹れる。


 愛理香にはアメリカンで淹れ、ボクはエスプレッソにした。


 ボクは苦いコーヒーを飲みながら、部屋の主が起きてくるのをじっと待っている。


 そして愛理香が起きてきた。

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