繋いだ手は離さない
 この香りで、鼻腔の奥がまるでくすぐったいように刺激されるのだ。


 それは得にも言えぬ感覚だった。


 ボクは自販機でコーヒーを二本買って、着ていたジャンパーのポケットに入れ、冷えないようにする。


 ゆっくりと愛理香のいる海岸に向けて歩きながら、ボクは考えていた。


“多分、あいつも寒い想いしてるだろうな”


 元いたビーチに辿り着くと、彼女はブーツを脱ぎ、砂浜に寝転がって寛いでいた。


 まるで夏のような振舞い方をしている。


「愛理香」


「ん?」


「コーヒー買ってきたよ」


「ああ、ありがとう」


 愛理香は底の厚いブーツが足の踵(かかと)の部分の負担になってしまっていて、脱いでいたらしい。
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