繋いだ手は離さない
 愛理香のそれも香っていた。


 二人の体の香りが自然と一緒になる。


 辺りにある木々の醸し出す匂いと混じり合って……。


 そしてボクたちの何気ない時間は続いた。


 ふっと愛理香が漏らす。


「……後期はあの羽野の顔見ないといけないわね」


「ああ。俺もあいつ嫌い」


 羽野次郎は人文学部の日本文学特講を受け持っている。


 学部の中では一番の長老教授だった。


 羽野は加齢しているからか、話自体が抽象的かつ曖昧で小難(こむずか)しく、学科の学生だけではなく、学部全体の学生から嫌われていた。


 後期はどうしてもそれを受講しないといけない。


 前期の特講を受け持っていた林教授は退官し、代わりに羽野が話をするのだ。

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