笑わない冷血姫は溺愛王子様たちに捕まりました。
♢逃げ出したくて
いつのまにか私は2年の教室棟から出て、渡り廊下を越えて特別教室棟まで来ていた。
思わず逃げてきちゃったけど…あの4人はたぶん婚約者候補さん達だよね…
そういえば4人とも周りをきょろきょろしてて、人を探している感じだった気がする…って、私のことだったらどうしようっ…
思わず逃げてきちゃったけど、教室戻らなきゃだよな…
そんなことを考えながら、誰もいない特別教室棟を歩いていると……
……え?なんか階段から人の気配が……っ
嫌な気配がし、私はさっと階段の陰に隠れた。
「はぁ…、紗菜さんどこにもいませんね…。」
誰もいないはずの特別教室棟の廊下に心地いい落ち着いた低音の声が響いた。
「紗菜さん」ってことは…。
見つかるかもしれないという不安を胸にちらりと廊下の方を見た。
「…っ」
視界に映った人間を見た瞬間私は口を押さえた。
あの長身は…確か、白石…夏樹さん?だった気がする。
私を探してここまで来てくれたんだろうけど、本当にごめんなさいっ…。
私は白石さんが階段から離れた教室まで進んだことを確認してから、音を鳴らさないように全速力で走った。
よし、この渡り廊下を渡れば教室にっ…
「…、え?」
「あ。」
思わず声が出てしまった。だって…階段に婚約者候補さんがいたから。この綺麗な髪は…新堂、司さんだったけな?
…って見てる場合じゃないっ!逃げなきゃっ…。
幸い新堂さんは何故か顔を赤らめて固まっているから、その間にっ…
無事、私は渡り廊下を渡りきり、教室に着くことができー、っえ?
私のクラスの教室の扉に立っていたのは、見覚えのある黒髪メガネのイケメンが立っていた。
あの人は…うーんと…紺乃、涼…さんだっ…。
ていうか…あんなところにいられたら教室に戻れないっ…
って今、目が合ったような…やばい、こっちに来てる…!?
私は本能的に逃げてしまい、気付いたらエレベーターに乗っていた。
「はぁ…」
…っ、スマホで時間を確認するとホームルームまであと10分を切ったところだった。
うぅ…。どうしようかな…もう諦めて教室に戻る…?
そんなことを考えている間に、いつの間にか屋上に着いていた。
うぅ…ずっと走っていたから、少し目眩が…っ
エレベーターの扉が開いた瞬間、自分が扉を支えに立っていたことに気付いた。自分の体が床に向かって落ちていくのが分かるっ…
「あ、…やばいっ…」
まさに床に頭が叩きつけられる直前ーー私は花の香りがする、柔らかい何かに包まれた。
「…っ、紗菜ちゃん、?」
「……っ!?」
鈴が鳴るような、でもどこか落ち着いた可愛い声が私に届いた。
声の主を明らかにするためバッと顔を上げるとそこに居たのは……
……さっき廊下で見かけた可愛い印象の男の子。
確か…ゆき、さん?だったかな。
彼は大きい目を更に大きく見開いた、驚いた顔をしていた。
「…えっと、紗菜ちゃんだよね?」
「…は、はい。」
これはもう誤魔化すことができないと本能的に察知してしまった。
って、今ゆきさんに抱きしめられて、る…?
そ、そうだ…、床に落ちそうになった私をキャッチしてくれているんだ。
「…す、すみません。抱きついてしまって…」
私は反射的にゆきさんから離れ、瞬時に謝った。
「…っ。」
やばいっ…謝って頭を下げた反動でまたふらっとして…
「…っ!?さ、紗菜ちゃん…!」
倒れそうになった瞬間、またゆきさんが私の肩に触れ、支えてくれた。
あ…、また助けてもらってしまった…
婚約者候補さんに弱みを見せたくないという意地が働いてしまい、私が自力で教室に向かおうとした瞬間ーー
「…っわあっ…!!」
…私は宙に浮いていた。
詳しく説明すると、ゆきさんが私を…お、お姫様抱っこしている状態。
「ごめんね、紗菜ちゃん。心配だから教室まで送らせて。」
「…っ、よ、よろしくお願い、します。」
正直恥ずかしくて仕方ないけど…私1人で教室まで行けるとは思えないし…
それに、何故かゆきさんの近くにいると落ち着いてしまう…、男の人は苦手なはずなのに何でだろう、?
さっきだって普段の私ならゆきさんの体を突き放して逃げているはずなのに…
あまりに心が休まってしまい、私はゆきさんに体を預けてしまった…。