わたしの大切なおとうと
 こんこんこん。

「かいちゃん。聞こえる?」

 かいちゃん家の、可愛い小さなかいちゃんのお部屋の前で。すごくかわいい「かいりの部屋」のかいちゃん手作りプレート。かいちゃんは可愛い。昔から、ずっと、ずーっと可愛い。わたしはかいちゃんを守っただけ。だから、わかってくれる。かいちゃんなら、わかってくれる。
 ……わたしは、()()()()()()三回ノックした。

「おねえちゃん。心配で、来ちゃった」
「おねえちゃんっ? 何しに来たのよ、あっちへいってよ、来ないでよ!」

 案の定、かいちゃんは腹を立てている。……まあ、わからないでもない。お姉ちゃんだもの。おとうとの気持ちくらい、きちんと把握してある。きちんと、やさしくしてあげればかいちゃんはわかってくれる。いい子だもの。世界一いい子だもの。

「かいちゃん。かいちゃんはね、誤解してるんだよ」
「なにが誤解だよっ! ひとのもの盗って、奪って、なにが誤解よ!」

 はは。盗っただなんて。心外もいいところ。お姉ちゃんはね、見定めただけなの。大事な大事なおとうとだもの。その相手が相応しいかどうかは、わたしが決める。お姉ちゃんだもの。当然だわ。

「盗ってなんかないよ。あの人はね、かいちゃんに相応しくなかったの。かいちゃんを傷つける、悪い人だったの。だから、これでよかったんだよ」
「なにがよかったのよ、あっちへいってってば!」

 ……これは予想外。思ったより手強いなあ。……ふふふ、大丈夫。それも想定済み。ゆっくりゆっくり、時間をかけるの。お姉ちゃんはこう見えて、気は長い方なの。

 ……

「ひぐっ……ひぐっ……」
「聞いてかいちゃん。おねえちゃんはね、かいちゃんが何より大事なの」
「……ひっく……しつこいよぉ……」
「大事なかいちゃんが、傷ついたら大変でしょ。おねえちゃんがね、守ってあげるの。これからも、ずっと、ずっとね」

 ……

「ね、かいちゃん。かいちゃん? わかってくれたかなー? ねー? かいちゃーん?」
「……もう、いいよ……わかったよ……」

 わ! かいちゃんが心を開いてくれた!
 ふふん、どーだ、おとうとよ。これがお姉ちゃんの器の広さなのだー。
 しゃーっ。ふすまが開いた。
 可哀想に。勘違い屋さんのおとうとは、目を真っ赤に泣き腫らしている。

「よしよし、かいちゃん。可愛いかいちゃん。よしよし、いい子だね」
「……」
「これからも、ずっといっしょだよ。お姉ちゃんが、全部を決めてあげる。うふふふ。だからね、ずっと、ずーっと、いっしょだからね?」

「……」

「ね?」
< 31 / 85 >

この作品をシェア

pagetop