わたしの大切なおとうと
 あーん。あーん。

 かいちゃんが大泣きしている。わたしも大泣きしている。
 お父さんがお母さんを叩いたから。頬を抑えながら、お母さんはお父さんを睨む。見たことも無い、とても怖いお顔で。そして、叫んだ。

「かいりだけは、かいりだけは連れていくからね!」
「勝手にしろ!」

 うわーん。うわーん。

「お父さん、お母さんを止めてよう。かいちゃんとお別れなんて、いやだよう。かいちゃんはなぎさがまもるの」

 えーん。えーん。

「お母さん。返してよ、なぎさのかいちゃん、返してよう!」
「おねえちゃん、おねえちゃん!」

 その日からわたしたちきょうだいは、永遠に離れ離れになった。

 ……

 四月十六日。日曜日。午後零時十分。わたし、十五歳。かいちゃん、十四歳。
 ……ちゅっちゅ。この歳になってもわたしは指しゃぶりが治らない。

「はあっ、はあっ」

 今の時期は使われていない、誰もいないプールの男子更衣室。暑い、蒸し暑い室内。かび臭い木のスノコの上で。わたしの上に()()()()()()()()森田りく君は、目をつぶって息を荒くして。汗を滴らせている。

「はっ……はっ……ふふ、上手、上手ね。……はあ、はあ、初めてなのに、とっても上手に出来ました」

 わたしも汗で頬を濡らしながら、年下の男の子の頭を、優しく、優しく撫でた。彼が脚を開いたわたしから()()。お腹の中がとっても熱いもので満たされて。その熱とにおいと……背徳感だけで。わたしは大きな声を上げて、身体を仰け反って果ててしまった。

「ねえ、もう一回。……ねえ」

 裸の年下の男の子がそう言ったので、今度はわたしが上に乗ってあげることにした。彼は寝そべって、わたしを受け入れた。

「はあっ、はあっ」

 ()()()も、それはそれはあっという間だった。

 ……

 ごめんなさいね。森田りく君。
 残念。とっても残念だけど。

 きみの採用試験は、不合格。

 残念だけどきみはわたしのかいちゃんには渡せない。
 こうやって、()()()()()()、その欲望を向けていてね。
 これからも、ずっと、ずっと。……ね?
 きみはわたしだけを……見ていればいいの。

 そう、上手、上手ね。
 いい子ね。いい子ね。

 ……ピンコン。

『お姉ちゃん。ねえ、今どこにいるの。返事してよ。ライン見てよ』

 また、わたしのスマホが鳴った。
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