わたしの大切なおとうと
「この後、どうなりましたか」
「お母さんのことを、お父さんがぶった、その後のこと? お母さんがかいちゃんを連れて出て行っちゃった」
「なんて、思いましたか」
「盗られたって、そう思ったよ。だって、世界一大切なおとうとだよ? 私が守らなきゃいけないのに。お母さんだけ、ずるいよ。……でも、ひとつ覚えたこともあったんだ」
「それは、なんでしょう」
「誰かを独り占めするには、ああすればいいんだって」

 ……

 令和五年四月十六日。日曜日。午前十一時四十六分。わたし十五歳。かいちゃん十四歳。

「え? 蒼井かいり? ああ、あの男おんなのこと? あー、無理無理、完全に無理っすね。男を好きになるとか、そういう趣味、ないんで」

 あの暑い春の日。
 プールの男子更衣室の前で、森田りく君はわたしの問いかけに、悪びれもせずそう答えた。

 そう。そうなの。そう考えてるの。
 なら……あなたは、不合格ね。
 わたしのかいちゃんには、相応しくありません。

 このままではかいちゃんが、わたしのかいちゃんが酷い傷を負ってしまう。この男の子の存在は、わたしが許可しない。かいちゃんから取り除かなくてはならない。永遠に。

「ねえ、お姉さんがいい事教えてあげる」

 わたしは唇で彼を塞いで喋られなくした上で、更衣室のドアを開けてスノコの床に押し倒した。

 ……

 ……その日からわたしは、何度も学校を休んで、何度も森田りく君の元に通った。交通費がかさむから、バイトして、定期まで買った。
 森田りく君は、わたしがEカップのブラのホックを外すと、どんな場所でも求めに応じた。ある時は男子トイレの便器の上で。ある時は音楽室の倉庫で。()()体育館の裏でしたこともあった。思う存分、欲望を吐き出させた。
「〇.〇三」と書いてある箱も、きちんと持って行った。けれど、すぐに足りなくなった。足りない分は、わたしは直で受け止めた。買っても買っても、足りないくらい森田りく君は、元気が良かった。

 夜は、かいちゃんと毎日電話。「りくくん」への秘めた想いを聞いてあげて、優しく励ました。

「うちね、今日、ラブレター書いてみたん。明日、放課後ロッカーに入れるんだー」

 本当に幸せそうにしているのが、声を聞くだけでわかる。もちろんそのラブレターは、学校を休んで中学校に忍び込んで、わたしが回収した。その足で、授業中の森田りく君を廊下に呼び出して、昨日の続きをする。彼はわたしの胸が大好きみたいだ。上に乗って、顔を埋めてあげると、あっという間だ。

 ……

 昼は、そうやって森田りく君と逢瀬を重ねた。彼が私の中で果てる度、わたしは深く安心できた。
 夜は、おとうとと電話。ラブレターを受け取ってくれたとおお喜び。わたしは深く安心できた。

 あの日までは。
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