わたしの大切なおとうと
今令和何年? 何月何日? 何曜日? 今何時? わたし何歳だっけ?
わいわいがやがや。ひとが行き来してる。ここはどこ?
ぴんぽーん。残高不足です。改札の音?
……そっか、わたし今、どこかの駅に居るんだ。吐き気と目眩がして、ベンチに座ったんだ。でも、どうしてここにいるんだっけ……
とんとん。
ん? どなた?
「お母さんのとこ、いくんでしょ、お姉ちゃん」
そうだ、ありがとうかいちゃん。やっぱり頼るべきはおとうとねえ。頼りになるね。さすがわたしのおとうと。お姉ちゃんは嬉しいよ。ついでにさ、ここがどこか、教えてよ。
……。
……だめか。
「まもなく、四番線に、京葉線直通、海浜幕張行きが参ります」
「おまたせいたしました、西国分寺、西国分寺です。中央線はお乗り換えです」
西国分寺……?
そか、お母さんの入院している病院に行くんだった。
あの病院……えーと……あれ、なんだっけ……何病院だっけ……えーと、えーと……
あれ……思い出せない。なんて名前だっけ。どんな見た目だっけ。どうやって行くんだっけ。
……
西国分寺の四番線ホーム。中央線との乗り換え客がすごくたくさんいて、行ったり来たり。そのベンチに、もう誰が見てもお腹が大きい、学生服を着たわたしが、座っている。大きなお腹をさすりながらひとりで話したり、けらけら笑ったり。
家路を急ぐサラリーマン。学生。同い年くらいの女子高生。みんな好奇の目で、わたしを見てくる。でももう、ここがどこで、どうしてここにいるのか、じぶんが誰なのか。なにも分からなくなっていたわたしには、なにも。なにひとつとして響かなかった。
そんな時。
「なぎさ?」
聞き覚えのある声に目を上げると、お母さんが立っていた。
「あんた、なぎさなの?」
「お母さん? どうして? 病院は?」
わたしはぼんやり聞いた。
「病院? 何のこと?」
「病院は病院だよ……入院、してたでしょ……ほら、あの、なんとか病院に……」
お母さんは、わたしの要領を得ない質問に、ただ困惑しているみたいだ。
「私が? ……入院なんてしてないわよ……そんなことより……」
お母さんの視線がおりる。娘の異変に気がついた。
「そのお腹……まさかあんた……」
「ああ、これ?」
わたしは満面の笑みを作って、歯を見せた。
「聞いて、お母さん。かいちゃんがね、帰ってきてくれたの。……ほら、みて?」
制服のシャツをがばっとたくしあげる。お腹は大きく出ていて、おへそもでちゃってる。
ホームを歩いているひとが、ぎょっとした視線を送ってくる。
「かいちゃん。私の中に……いるの……ねえ。かいちゃんが……」
そういうとわたしは、服をめくったまま、気を失った。
わいわいがやがや。ひとが行き来してる。ここはどこ?
ぴんぽーん。残高不足です。改札の音?
……そっか、わたし今、どこかの駅に居るんだ。吐き気と目眩がして、ベンチに座ったんだ。でも、どうしてここにいるんだっけ……
とんとん。
ん? どなた?
「お母さんのとこ、いくんでしょ、お姉ちゃん」
そうだ、ありがとうかいちゃん。やっぱり頼るべきはおとうとねえ。頼りになるね。さすがわたしのおとうと。お姉ちゃんは嬉しいよ。ついでにさ、ここがどこか、教えてよ。
……。
……だめか。
「まもなく、四番線に、京葉線直通、海浜幕張行きが参ります」
「おまたせいたしました、西国分寺、西国分寺です。中央線はお乗り換えです」
西国分寺……?
そか、お母さんの入院している病院に行くんだった。
あの病院……えーと……あれ、なんだっけ……何病院だっけ……えーと、えーと……
あれ……思い出せない。なんて名前だっけ。どんな見た目だっけ。どうやって行くんだっけ。
……
西国分寺の四番線ホーム。中央線との乗り換え客がすごくたくさんいて、行ったり来たり。そのベンチに、もう誰が見てもお腹が大きい、学生服を着たわたしが、座っている。大きなお腹をさすりながらひとりで話したり、けらけら笑ったり。
家路を急ぐサラリーマン。学生。同い年くらいの女子高生。みんな好奇の目で、わたしを見てくる。でももう、ここがどこで、どうしてここにいるのか、じぶんが誰なのか。なにも分からなくなっていたわたしには、なにも。なにひとつとして響かなかった。
そんな時。
「なぎさ?」
聞き覚えのある声に目を上げると、お母さんが立っていた。
「あんた、なぎさなの?」
「お母さん? どうして? 病院は?」
わたしはぼんやり聞いた。
「病院? 何のこと?」
「病院は病院だよ……入院、してたでしょ……ほら、あの、なんとか病院に……」
お母さんは、わたしの要領を得ない質問に、ただ困惑しているみたいだ。
「私が? ……入院なんてしてないわよ……そんなことより……」
お母さんの視線がおりる。娘の異変に気がついた。
「そのお腹……まさかあんた……」
「ああ、これ?」
わたしは満面の笑みを作って、歯を見せた。
「聞いて、お母さん。かいちゃんがね、帰ってきてくれたの。……ほら、みて?」
制服のシャツをがばっとたくしあげる。お腹は大きく出ていて、おへそもでちゃってる。
ホームを歩いているひとが、ぎょっとした視線を送ってくる。
「かいちゃん。私の中に……いるの……ねえ。かいちゃんが……」
そういうとわたしは、服をめくったまま、気を失った。