わたしの大切なおとうと
 令和七年一月十三日。月曜日、成人の日。午後五時七分。わたし、十七歳。
 白い壁が素敵な、たくさんのお花に囲まれた、多摩ニュータウン・唐木田にある塩谷家。南向きで、バルコニーがあって。真冬でもぽかぽかと暖かい、幸せの家。
 わたしがこの家の子供になって、ひと月が過ぎた。はじめは緊張してざわざわしてた心も徐々に落ち着いて、ゆっくりと、暖かなリビングでかいちゃんと遊べるようになった。

「あはは、ほんとになぎさちゃんはかいとが好きだねえ」
「お姉ちゃんだもん。おとうとを守るのは当たり前だよー」

 わたしは笑う。胸を張ったつもりだ。

「そうね、弟『分』だもんね」

 かおりさんがお皿を洗いながら言った。
 ん? いま、なんて言ったんだろう。

「おねえちゃん、みてー?」

 気になったけれど、くまのぬいぐるみを見せに来たかいちゃんがあんまり可愛いから、忘れた。あ、忘れたと言えば。

「そうそう、忘れてた! えーっと……あったあった! ……じゃーん! これ、かいちゃんが好きだったワンピース! 探したんだよ。はい、かいちゃん、バンザイして?」

 むぎゅ。ピンクのくまのワンピースを着せてあげる。前髪が長いから、わたしの髪ゴムで結んであげた。

「かおりさん、見て! やっぱりかいちゃんは、これじゃないとね! ねー? かいちゃん!」
「うん。ぼく、にあう?」

 おんなの子もののワンビースを来て、髪を結んだかいちゃんが、かおりさんのところに見せに行く。
 かちゃん。かおりさんがシンクの中でお皿を落とす。

「そ、そだね。似合ってる……ね」

 かおりさんも笑ってくれてる。かいちゃんも可愛い。わたしは、毎日が幸せでいっぱいだった。

 ……

「おう、なぎさちゃん。こんばんは」

 新しいお父さんの塩谷こうせいさんが帰ってきた。

「ぱぱ、おかえりー」

 ピンクのくまのワンピースのかいちゃんが出迎える。

「おー、なんだなんだ、かいとは、はは。女の子みたいだな」
「おかえりなさい、こうせいさん」

 かおりさんのパジャマを借りたわたしも、お迎えする。……お父さんって言っても二十九。わたしとは十三歳しか離れてない。

「わお。すげえ可愛いじゃん。……おねえちゃんだもんな。女子高生は違えよなあ。やっぱ」
「あなた、ちょっと」

 かおりさんが何か、お父さんに耳打ちした。

「どうしたの?」
「あ、ええ、気にしないで、かいとと遊んできて」

 その顔は笑顔だったけどどこか曇っているような、そんな気がした。
< 71 / 85 >

この作品をシェア

pagetop