わたしの大切なおとうと
 五月十五日。日曜日。午後二時五十二分。わたし、四歳。かいちゃん三歳。
 お母さんは吐いてしまったかいちゃんに付きっきりでテントに居て、わたしがどんどん遠くに行っていることに気付かない。

「おかあさんがよんでるよ。……ねえ」

 でも、わたしの手を引く知らないお兄さんは、大丈夫、大丈夫と繰り返すだけ。

「なぎさー?」

 お母さんの声が段々小さくなる。

「……もう、かえる。ねえ。かえるー……」

 わたしはだんだん怖くなってそう言った時。

「可愛いの、見繕ってきた」

 そういって、しらないお兄さんしかいないワゴン車に乗せられた。

 ……

 それからの一時間。わたしはなにが起きたかわからない。
 服を脱がされて、裸んぼにされた。それから、写真をたくさん撮られた。いやって言ったのに、辞めてくれない。むしろ泣けば泣くほど、笑われて、お母さんにも見せたことの無い、恥ずかしい格好をさせられた。
 次に目隠しされた。そして、しらないお兄さんは、かわりばんこにのしかかった。それは、未熟な四歳の身体にはあまりに残酷だった。信じられないくらいのあまりの痛みに、絶叫した。やめて、たすけて。何度も泣き叫んだ。あんまり痛いから、死にものぐるいで目隠しを取って、逃げようと窓に張り付いた。
 ちょうどその時。

「なぎさー? なぎさー?」

 お母さんがくるまの前を通った。黄色い機関車のキャラクターの描いてあるシャツを着たかいちゃんの手を引いて。

「おかあさん! かいちゃん! ここだよお! おかあさん! かいちゃん! たすけて、たすけてえ!」

 わたしは必死に窓を叩いた。でも、外からは見えないのか、二人がわたしに気づくことは、なかった。
 わたしはまた座席に引き摺り戻されて、座席に押し付けられて四つん這いにさせられた。遠くなるお母さんとかいちゃん。助けてと呼んでも、決して気付いてはくれないわたしの大切なふたり。

「あれ、きみのおとうと? じゃあこうしよっか」

 最初に声をかけて、最初にのしかかったお兄さんが、言った。

「もしお兄さんたちのこと、お母さんやお父さんやお巡りさんに言ったら、おとうとにはもっと痛いことをする。今痛いでしょ? もっともっと、痛くする」
「やだ、やだ!」

 わたしは犯されながら必死で首を振った。

「やだよな。じゃあ……守らないと」

 お兄さんはすごく汚く笑った。そして、こう言った。

「おねえちゃんだもんな。守れるよな? おとうとのこと」

 びくん。
 わたしは身体を強ばらせた。

「大事なおとうとだもんなあ? 同じ目に、合わせたくないだろ」

 こくこく。わたしは涙を流しながら頷いた。

「じゃあ、もう少し辛抱だ。これしてれば、怖くないから」

 わたしはまた目隠しをされ、後ろから何度も何度も。気が遠くなるくらい犯され続けた。

 全部が終わるのに、一時間二十二分かかった。

「はっ……はっ……」

 下半身から溢れ出した大量の血で真っ赤になったわたしに、お兄さんはピンクのワンピースを着せた。

「さ、おとうとのところ、行ってやんな」

 そう言って、もう痛みで立てないわたしを抱き上げると、車外の砂利道に置いた。

「楽しかったよ。またね?」

 トヨタのワゴン車は走り去った。

 ……

「おねえちゃんだもんな。守れるよな? おとうとのこと」

 その言葉が、わたしの心の何よりも深い場所に焼きゴテで焼き付けられたように、刻み込まれた。
< 81 / 85 >

この作品をシェア

pagetop