反番物語~エーファは反溺愛の狼煙を上げる~
第一章 番認定

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 馬鹿みたいに浮かれていたあの時間まで、時を戻したい。いや、それよりも前だ。招待状を受け取った時にもっと疑うべきだった。
 女性は必ず参加すること、と書かれたあの招待状の条件に。


「見て、スタンリー! なんて大きいシャンデリア!」
「まだパーティー始まってないんだから、あんまりウロチョロするなよ」
「お料理もきっと美味しいんだろうね!」
「そりゃあ王宮のパーティーだから」

 田舎のシュミット男爵領とは何もかもが違う。
 魔法省の試験を受けに来た時は無機質な部屋だったから、こんなに豪華なお部屋は初めて見た。

「魔法省に入ったらさ、こういうところに何度も来れるかな?」
「俺たちは仕事でしか入れないだろ。パーティーにバンバン呼ばれて参加する家柄でもないしな」
「護衛とかあるかもしれないわ」
「エーファは攻撃系の魔法が得意だから、狭い空間での護衛は向かないんじゃないか?」
「あ、見て。あの人のドレス。すっごく綺麗!」
「話を聞けよ」

 幼馴染で婚約者のスタンリーに笑われながら、エーファはとんでもなくはしゃいでいた。
 今日着ているドレスは、魔法省への就職が決まったエーファに奮発して両親が買ってくれたものだ。オーダードレスを買えるほどのお金はエーファの家にはないが、それでもエーファは嬉しかった。
 この素敵なドレスを着て、こんなに素敵なお城で今日はスタンリーと踊るのだ。

 両親も兄もエーファも今日は遠いシュミット男爵領から出てきてパーティーに参加している。エーファの婚約者であるスタンリーもシュミット男爵領の隣のオーバン子爵領から一緒にやってきた。

「そういえば何でこのパーティー、貴族女性は全員参加なんだろうな?」
「第三王子の婚約者決めじゃないの?」
「それならそう書いて、婚約者のいない年頃の令嬢だけ参加させたらいいだろ?」
「それもそっか。既婚女性も参加するように書かれてたもんね。第三王子って実は年上好きとか?」
「そんなことのために既婚女性呼ばないだろ……いくら王家でも結婚した女性別れさせてまでそんなことしないはずだ」


 そんな会話をスタンリーとしていたので気付かなかった。こちらにまっすぐ向かってくる男に。
 急に腕を掴まれる。

「きゃあ!」

 エーファは驚き腕を振り払おうとした。しかし、ビクともしない。
 相手を確かめると、見たこともない若い男だ。エーファは田舎の男爵令嬢なのでほとんどの貴族の顔など知らないのだが、雰囲気からこの国の人間ではない気がした。

 褐色の肌に見事な銀髪の野性味あふれるその男は、エーファの腕をつかみながら熱い視線を向けるという矛盾した行動をしていた。

「すみません。私の婚約者に何か?」

 王宮開催のパーティーで、参加者が不審者相手に魔法をぶっ放すことなんてしてはいけない。魔法省の職員なら別だが。
 スタンリーは相手を刺激しないように丁寧な言葉遣いで話しかけた。

(つがい)だ」
「はい?」
「俺の番だ」

 訳が分からない会話をスタンリーと男がしている。スタンリーの表情を見る限りよく分かっていないようだ。それにしても、エーファの腕は掴まれて痛くて悲鳴を上げている。

「痛いからさっさと放しなさいよ!」

 エーファは掴まれていない方の手を振りかぶって男の頬を打った。魔法は使っていないが、いい音がした。
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