反番物語~エーファは反溺愛の狼煙を上げる~
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アヴァンティアの取りなしによって天空城に滞在できるようになった。リヒトシュタインの母親であるエリスが使っていた部屋をあてがってくれるそうだ。
アヴァンティアはエリスに負い目があるようで、リヒトシュタインにも優しい。というよりも強く出られない雰囲気がある。それに、今回は番紛いも気になっているようだ。
「まだあいつは母親にべったりなのか」
「先代王妃だからいろいろ相談しやすいのかもしれないじゃない。即位したばかりだから」
「さっさと竜人を妃に迎えたらいい。あの母親依存。母が病でもないくせに」
竜人は一夫多妻制なのだからリヒトシュタインの言うことは正しいのだろう。ルカリオンがまだ誰も迎えていないということは、竜人全員が何人も妻を持つわけでもないのか。
「俺は一夫多妻制にするつもりは毛頭ない」
「え、あ、うん」
内部を知っているので案内もなく部屋に向かっていると顔を覗き込まれて驚いた。
「変なことを考えていただろう」
「先代竜王陛下の三人の妻はどうして亡くなったのかなって」
「番である母に嫌がらせをしたからだ」
「聞かなきゃよかった」
「先代竜王陛下が殺した」
「うわぁ、本当に聞かなきゃよかった」
「人間だろうと何だろうと番に嫌がらせをすればそうなる。命知らずで愚かな竜人たちだった。とにかく俺の番はエーファで、妻もエーファだけだ」
どうなるか分からないじゃない、と返そうとしたがその前にリヒトシュタインに引き寄せられる。
「ねぇ、どうして腰に手を回すのよ」
「注目されているからだ。竜人や竜たちがこっちを見ているだろう」
竜人の姿は確認できないが視線は何となく感じる。
「こうやって歩く必要ないでしょ」
「面倒な輩が湧かないように見せつけておいた方がいい。堂々としろ」
「してる。やましいことは何もないんだから」
「そうだった。エーファが可愛いのはベッドの上だけで、普段はトラのように気まぐれでふてぶてしいんだった。それに、いつも自信がある。まさにトラだ」
「ちょっと! なんてこと言ってるの!」
リヒトシュタインの腰に回った手を叩くと彼は笑った。
「ほら、すぐ手が出る。獰猛だ」
「トラじゃあ竜に勝てないじゃない」
「竜虎はセットだからきっといい勝負だ。ベッドの上では可愛い子ネコなのに。ベッドから出た途端に気が強い。逆でもいいのに」
「セミ扱いだったでしょ!」
「そうだった。俺のセミだな。それならば飛んでいかないように頑張って捕まえておかないと」
「ふざけないで!」
部屋の中はそのままで変わっていなかった。唯一違うのはベッドに横たわる女性がいないこと。そして自分の部屋であるかのように寝そべってくつろぐ白竜もそのままだ。
「ティファイラ!」
「あぁ、ここにいたのか」
エーファは白竜に駆け寄る。白竜は首をもたげると、駆け寄ったエーファではなく後ろのリヒトシュタインにじぃっと視線を向けた。リヒトシュタインが鷹揚に頷くと、鼻先をエーファに擦り付けてくる。
「今の間は何?」
「ティファイラは賢く、よく弁えている。エーファが俺の番になったことが香りで分かるから許可を取ったんだ。人間だって既婚者や婚約者のいる者にみだりに触れないだろう」
「あぁ、そういうこと」
柔らかく湿った鼻先を撫でる。この感覚も懐かしい。
「ティファイラは今までどこにいたの?」
撫でながら話しかけたところで白竜は喋りはしない。しかし、エーファと同じく久しぶりに会えて嬉しそうだ。
弁えているせいか、以前のように服を噛んでヨダレでベタベタにしてこない。
「さすがに目の前でベタベタされると妬けるな」
リヒトシュタインの言葉に白竜はピタリと動きを止める。
「何の冗談? ティファイラが委縮してるじゃない」
「本気だが」
「ティファイラってメスでしょ?」
「オスだ」
「え、嘘」
「本当だ」
「オスなの? 綺麗な名前だからメスだと思った」
「俺だって綺麗な名前をしている」
「そこで張り合わないで」
離れて行こうとする白竜の鼻先に抱き着くと、白竜の金色の目が驚きなのか大きく開く。気づかわしそうに白竜の視線はリヒトシュタインに向けられた。
「エーファ。俺を放置しすぎじゃないか」
「まだ数分しか放置してない。また自由に飛んで行っちゃうかもしれないんだから今はいいでしょ」
「天空城に到着して早々に浮気か?」
「どうしてこれが浮気になるのよ。前もこういうことしてたから」
「前から浮気をしていたのか」
「そんなこと言うなら私、一妻多夫制にするから」
「酷いな、俺はエーファを唯一の妻にすると誓ったのに」
こうやってどうでもいい、いやそこまでどうでもいい会話でもないが、他愛もない話を軽い口調でしている方がリヒトシュタインとの関係には合っている。
この前の彼の誕生日みたいに、妙に真剣で艶めかしく生温い雰囲気になるのは困る。
鼻先に抱き着いていたエーファの腰に手が回って白竜から引き離された。
「酷い。感動の再会に水を差すなんて」
「ティファイラが困っている」
「困らせてるのはあなたでしょ」
リヒトシュタインの方を向かされて、両腕で囲い込まれる。エーファの背中には白竜の胴体がある。いや前足かもしれない。
白竜がモゾモゾ動いてくれれば抜け出せるのに、固まったように微動だにしない。また妙な雰囲気が流れてしまう。
エーファはどうもこの雰囲気に慣れず苦手だった。
絵本だったら二人は思いを通わせて幸せに暮らしました、で終わっていたはずなのに。エーファとリヒトシュタインには番になってもその後、長い人生がある。リヒトシュタインは特に長い。
その後の長い人生をどう歩んでいくのか、絵本は教えてくれない。幸せになりましたチャンチャンで終わるはずがないのに。どうせ喧嘩だってするし、離婚だってあるかもしれない。
エーファが心の中で盛大にブツブツ言っていると、コンコンとノックの音がした。俯いていた顔を上げると至近距離にリヒトシュタインの顔がある。
「アヴァンティア様かな」
「面倒だが対応しないといけない」
リヒトシュタインの体が離れてエーファは緊張を解いた。
アヴァンティアはエリスに負い目があるようで、リヒトシュタインにも優しい。というよりも強く出られない雰囲気がある。それに、今回は番紛いも気になっているようだ。
「まだあいつは母親にべったりなのか」
「先代王妃だからいろいろ相談しやすいのかもしれないじゃない。即位したばかりだから」
「さっさと竜人を妃に迎えたらいい。あの母親依存。母が病でもないくせに」
竜人は一夫多妻制なのだからリヒトシュタインの言うことは正しいのだろう。ルカリオンがまだ誰も迎えていないということは、竜人全員が何人も妻を持つわけでもないのか。
「俺は一夫多妻制にするつもりは毛頭ない」
「え、あ、うん」
内部を知っているので案内もなく部屋に向かっていると顔を覗き込まれて驚いた。
「変なことを考えていただろう」
「先代竜王陛下の三人の妻はどうして亡くなったのかなって」
「番である母に嫌がらせをしたからだ」
「聞かなきゃよかった」
「先代竜王陛下が殺した」
「うわぁ、本当に聞かなきゃよかった」
「人間だろうと何だろうと番に嫌がらせをすればそうなる。命知らずで愚かな竜人たちだった。とにかく俺の番はエーファで、妻もエーファだけだ」
どうなるか分からないじゃない、と返そうとしたがその前にリヒトシュタインに引き寄せられる。
「ねぇ、どうして腰に手を回すのよ」
「注目されているからだ。竜人や竜たちがこっちを見ているだろう」
竜人の姿は確認できないが視線は何となく感じる。
「こうやって歩く必要ないでしょ」
「面倒な輩が湧かないように見せつけておいた方がいい。堂々としろ」
「してる。やましいことは何もないんだから」
「そうだった。エーファが可愛いのはベッドの上だけで、普段はトラのように気まぐれでふてぶてしいんだった。それに、いつも自信がある。まさにトラだ」
「ちょっと! なんてこと言ってるの!」
リヒトシュタインの腰に回った手を叩くと彼は笑った。
「ほら、すぐ手が出る。獰猛だ」
「トラじゃあ竜に勝てないじゃない」
「竜虎はセットだからきっといい勝負だ。ベッドの上では可愛い子ネコなのに。ベッドから出た途端に気が強い。逆でもいいのに」
「セミ扱いだったでしょ!」
「そうだった。俺のセミだな。それならば飛んでいかないように頑張って捕まえておかないと」
「ふざけないで!」
部屋の中はそのままで変わっていなかった。唯一違うのはベッドに横たわる女性がいないこと。そして自分の部屋であるかのように寝そべってくつろぐ白竜もそのままだ。
「ティファイラ!」
「あぁ、ここにいたのか」
エーファは白竜に駆け寄る。白竜は首をもたげると、駆け寄ったエーファではなく後ろのリヒトシュタインにじぃっと視線を向けた。リヒトシュタインが鷹揚に頷くと、鼻先をエーファに擦り付けてくる。
「今の間は何?」
「ティファイラは賢く、よく弁えている。エーファが俺の番になったことが香りで分かるから許可を取ったんだ。人間だって既婚者や婚約者のいる者にみだりに触れないだろう」
「あぁ、そういうこと」
柔らかく湿った鼻先を撫でる。この感覚も懐かしい。
「ティファイラは今までどこにいたの?」
撫でながら話しかけたところで白竜は喋りはしない。しかし、エーファと同じく久しぶりに会えて嬉しそうだ。
弁えているせいか、以前のように服を噛んでヨダレでベタベタにしてこない。
「さすがに目の前でベタベタされると妬けるな」
リヒトシュタインの言葉に白竜はピタリと動きを止める。
「何の冗談? ティファイラが委縮してるじゃない」
「本気だが」
「ティファイラってメスでしょ?」
「オスだ」
「え、嘘」
「本当だ」
「オスなの? 綺麗な名前だからメスだと思った」
「俺だって綺麗な名前をしている」
「そこで張り合わないで」
離れて行こうとする白竜の鼻先に抱き着くと、白竜の金色の目が驚きなのか大きく開く。気づかわしそうに白竜の視線はリヒトシュタインに向けられた。
「エーファ。俺を放置しすぎじゃないか」
「まだ数分しか放置してない。また自由に飛んで行っちゃうかもしれないんだから今はいいでしょ」
「天空城に到着して早々に浮気か?」
「どうしてこれが浮気になるのよ。前もこういうことしてたから」
「前から浮気をしていたのか」
「そんなこと言うなら私、一妻多夫制にするから」
「酷いな、俺はエーファを唯一の妻にすると誓ったのに」
こうやってどうでもいい、いやそこまでどうでもいい会話でもないが、他愛もない話を軽い口調でしている方がリヒトシュタインとの関係には合っている。
この前の彼の誕生日みたいに、妙に真剣で艶めかしく生温い雰囲気になるのは困る。
鼻先に抱き着いていたエーファの腰に手が回って白竜から引き離された。
「酷い。感動の再会に水を差すなんて」
「ティファイラが困っている」
「困らせてるのはあなたでしょ」
リヒトシュタインの方を向かされて、両腕で囲い込まれる。エーファの背中には白竜の胴体がある。いや前足かもしれない。
白竜がモゾモゾ動いてくれれば抜け出せるのに、固まったように微動だにしない。また妙な雰囲気が流れてしまう。
エーファはどうもこの雰囲気に慣れず苦手だった。
絵本だったら二人は思いを通わせて幸せに暮らしました、で終わっていたはずなのに。エーファとリヒトシュタインには番になってもその後、長い人生がある。リヒトシュタインは特に長い。
その後の長い人生をどう歩んでいくのか、絵本は教えてくれない。幸せになりましたチャンチャンで終わるはずがないのに。どうせ喧嘩だってするし、離婚だってあるかもしれない。
エーファが心の中で盛大にブツブツ言っていると、コンコンとノックの音がした。俯いていた顔を上げると至近距離にリヒトシュタインの顔がある。
「アヴァンティア様かな」
「面倒だが対応しないといけない」
リヒトシュタインの体が離れてエーファは緊張を解いた。