反番物語~エーファは反溺愛の狼煙を上げる~

11

 ベッドから飛びのいて距離を取る。
 動いているものの大きさはこぶし大くらい。窓から偶然何かが入ったのか、嫌がらせなのか……。動いているのはシーツだからおそらく嫌がらせだ。

 この部屋まで案内してくれた使用人の表情、そういえば……変だった。扉を開けた時、あの使用人、男だけど。ニヤついてなかった?

 エーファはベッドにゆっくり近づくと、上掛けとシーツをめくった。

「ゲコ」

 いや、さっきまでどうして鳴かなかったのよ。心の中で盛大にツッコミを入れる。

 シーツをめくったらカエルがいた。だから何だろうか? 残念ながらエーファはカエルで悲鳴を上げるような乙女チックな女の子ではない。

 ドラクロアのカエルが毒を持っていたら困るので、結界の小さな箱を作ってカエルを閉じ込めポケットに入れる。エーファの結界は魔物に対しての強度に不安があるが、普通のカエルへの強度は全く問題がない。

「カエルをシーツの中に入れるって。人間みたいな嫌がらせ」

 エーファはカエルや虫で悲鳴を上げる女の子ではない。平常時なら笑って済ましたであろう、この事態。
 しかし、エーファは疲れておりさらに気が立っていた。異国に来たストレスもある。頭のどこかでブチっとなにかがキレた音がした。さらに残念ながら、唯一ストッパーになりそうなミレリヤはここにはいない。

「異国から来たかよわい人間に、くっだらない嫌がらせして」

 エーファは短気なのである。沸点がえらく低いのである。そして、許容できないものも多いのである。無駄な正義感もお持ちだ。

「ふっざけんなよ。人間舐めるな」

 シーツのカエルを見て、エーファはキレてしまっていた。
 ズンズン歩いて、部屋の扉に手をかけたところで扉の向こうに人の気配がする。護衛か野次馬の使用人か。

 よし。
 エーファは扉を開けることなく、くるっと向きを変えて開け放った窓から大きくジャンプした。

***

 スタンリー・オーバンは魔法省の就職試験でこう語った。

「治癒魔法を使える理由ですか? あはは。えーと」
「君をぜひ採用したいと思っていてね。でも治癒魔法を使える者は少ないから、今後のために習得のコツがあれば参考にしたいんだ」

 フレンドリーな副局長との面接で採用がほぼ確実になったスタンリーは、うっかりいろいろ喋ってしまった。

「幼馴染で婚約者で、一緒に受験しているエーファ・シュミットなんですが。彼女は男爵領では一番魔法の才能に溢れていました。俺、じゃなかった私なんて足元にも及ばないくらいです」
「君はどの魔法もオールマイティーに使いこなすからね」
「言葉は悪いですが、エーファはよく魔法をぶっ放していて……怪我が絶えなかったので……」
「あぁ、だから君は必死で治癒魔法を習得したわけだ」
「はい、骨折は日常茶飯事でしたから。木の上から飛び降りて風魔法で浮く練習の時は特に」
「なるほどねぇ。じゃあ、彼女はうちの局長みたいに短気で諸突猛進なわけだ」

 副局長は遠い目をする。日頃の苦労がしのばれる。

「短気、いえ正義感が強いと言えばいいのか」
「大体のことをパワーで解決するタイプ?」
「そうですね。魔法と根性でごり押しします」

 この後は面接ではなく、局長とエーファの愚痴大会になったのは言うまでもない。
< 21 / 72 >

この作品をシェア

pagetop