反番物語~エーファは反溺愛の狼煙を上げる~

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 風魔法をクッション代わりに使って、難なく二階から地面へとエーファは着地した。このくらいなら詠唱は必要ない。宿屋で枕を切り刻んだ時は腹が立っていることを家族に示したかったから、わざわざ当てつけのために最小限で詠唱をした。
 毎回詠唱していたら、状況によってはこっちがやられてしまう。

「さてっと」

 庭を歩くと、エーファが見える範囲からいなくなって安心していたであろうオオカミたちが竜の香りに怯えてまた逃げ惑って隠れる。

「庭でも燃やしたら嫌がらせになるかな」

 到着早々、庭を燃やす人間。うん、とても物騒。でも、さっきの洗濯物を燃やした方が嫌がらせにはなった気がする。
 衝動的に部屋をバレずに飛び出したものの、逃亡にはまだ早い。どうやってあの壁を登るかも決めていない。広い庭を歩きながらうーんと唸っていると、屋敷の塀の外がガヤガヤと騒がしくなった。

「まず、ブラックバード一体お届けにあがりました~!」

 オオカミたちを立ち退かせながら音の発生源の方向に行くと、見えたのはカラフルな頭、頭、頭、そして翼がたたまれ極限までコンパクトになり木の板の上に乗せられたブラックバード。ここまで飛んで運んできたのだろう。鳥人たちはカナンと一緒でカラフルな髪が多い。

「わ、ありがとうございます!」
「もう一体は明日になりますんで」

 注文した野菜を届けに来たかのような気軽さ。
 門番二人が困っているが、鳥人たちは意に介さずエーファを見つけると敷地内にドカドカ入ってきた。数の暴力と魔物の死体に負けている。いいんだろうか、門番がそれで。オオカミたちも全然あてにならない。

「どこに置きます?」

 見覚えのある鳥人に声をかけられて、エーファはいいことを思いついた。

「庭に置いてください」
「え、普通は処理して倉庫かどっかに保管すると思うんすけど」
「今、ここで食べるんで置いてください」
「え?」
「マジっすか?」
「羽根もある程度むしってくださったんですね!」

 驚きに口を開ける鳥人たちをスルーしてブラックバードに近付くと、鳥人たちは慌てて運んでくれる。

「すごい、血まで抜いてくださって」
「人数がいたんで」
「ブラックバードってまずくないっすか?」

 庭に魔物の血でもまいてやろうかと考えていたが、すでに血抜きがされていたのでそんなホラーは実現しなかった。残念。オオカミ獣人がどのくらい鼻がいいのか試したかったんだけど。血の臭いで興奮するしない、番の香りが誤魔化せるかどうかも知りたい。

「私の国では魔物は仕留め方で味が変わる、という認識でした。一発で殺した魔物は美味しくて、何度も何度も攻撃を与えて痛みを長引かせて狩った魔物は美味しくないんです。もちろん、魔物自体のお肉が美味しくない、口に合わない場合もあるんですけど」

 おぉ、内臓の処理もされてる。あとは皮をはいで小さく解体するくらいか。

「え、そうなんすか? じゃあ、ブラックバードってほんとは美味しい?」
「俺たちが前食べたのって……確か一撃で仕留めたやつじゃなかったよな?」
「こんなデカいのを一撃で仕留められるなんて、イザドラ隊長くらいだろ」
「カナンがとどめ刺したブラックバードはまずいってこと?」
「これから魔物のお肉食べるんですけど、良かったら一緒に食べます?」

 エーファが声をかけると、鳥人たちは一斉にエーファを見た。鳥人なので首の角度が人間ではあり得ない角度まで回っている者もいる。

「いいんすか?」
「はい。私さっきこの屋敷の部屋に案内されたらこれがベッドにいて」

 ちょっと予想と違うけどいいか。ポケットからさっきのカエルを取り出す。

「げ、これって皮膚に麻痺毒を持つカエルっすよ」
「じゃあ偶然部屋に入ってきていたわけではなく、嫌がらせですね。さすがにこれがシーツの下にいたので……。こういう嫌がらせがあるとこの家で出された食事に何が入っているか分からないので、身の安全のために魔物のお肉を焼いて食べようかと」

 エーファは悲しそうな顔を作ろうとしたが、できなかった。涙なんて出るわけがない。かよわい庇護欲をそそる女の子の演技をしようと思ったが、失敗。やっぱり柄でもないことはできない。

 そのため、結界で覆ったカエルを片手に淡々と事実を語るだけになってしまった。怒りはおさえているので真顔に見えるだろうが、エーファは好戦的なので唇くらいは引きつっているかもしれない。

「うげぇ、オオカミって意地悪ぅ」
「オオカミがカエル使って嫌がらせって器ちいせぇ」
「カエルさん、かわいそう」
「せめて正々堂々勝負だろ」
「大体、空中戦でなんも役に立たないオオカミがでかい顔しやがって」

 最後の方は今の状況に関係ないかな?

「ということで、お肉祭りをしましょう。今すぐにここで」

 鳥人たちはチャラチャラしているのにこういう時は歓声を上げず、無言で親指を立てていた。ついでに鳥足の親指もつられて上がっている。
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