反番物語~エーファは反溺愛の狼煙を上げる~

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 急に庭が静かになってしまった。いや、シュメオンと公爵は相変わらずマイペースに食べている。
 この反応を見るに、私は何かとてつもなく変なことでも喋ってるのかな……。

「えっと、みなさんはご結婚ってされているんですか? 番の方と? やっぱり番に言い寄られると嫌なのかな~なんて……」

 話題を変えるには無理矢理すぎるが、この空気はいたたまれない。エーファの無理がある問いに鳥人たちは半々ほど頷いたり、首を振ったりした。

「ここにいるのは独身と既婚が半々っすね。でも、番と絶対に結婚するわけじゃないっす」

 返事をくれたのは最初からあまり物怖じせずエーファと喋ってくれる黒髪の鳥人だ。カラフルな頭の中に真っ黒な頭があるのもそれはそれで目立つ。背が高いせいもある。

「え、でも番は絶対だって聞いたんだけど……」
「番を見つけている奴らは番と結婚しますよ。でも、番がドラクロアや周辺国で見つからない場合は別っす」
「そうなの?」
「はい。カナンたちの家は金があるんで遠くまで番を探しに行けるんすが、俺たちみたいにビンボーなのは遠くの国まで番を探しに行けないっす。ビンボー暇なし」
「あ、はい」

 まさかの金銭的問題と休みの問題。確かに遠くまで旅をして番を連れて帰ってくるとなると……エーファたちは高級宿に宿泊させてもらえたので旅費は相当かかっただろう。

「そういう場合は番以外と結婚するっす。恋愛結婚ってやつですね」
「そうなんだ」

 じゃあ、エーファは本当に運が悪かったんだろうか。ギデオンが探しにさえ来なければエーファは今頃、スタンリーと一緒にいたはずなのに。

「たまに恋愛結婚してから番が現れたら修羅場になるっすね」
「え、そんなこともあるの」
「はい、楽しいっすよ。殺し合いにもなって。そーゆー場合はちゃんとドラクロアの隅々まで探さなかったか、あるいはドラクロアにその時偶然旅行に来た他種族だったとかっすね。他種族だった時はまた揉めに揉めるんすよね。相手に番の概念ないんで」

 この黒髪の鳥人、こんな発言するなんて正気? 他の鳥人たちも引いているから、エーファの感覚がおかしいわけではないようだ。でも、誰も否定しないから事実を喋っているんだろう。

「あとは、一夫多妻制の獣人は多いっすね」
「ってことは?」
「安心してくださいっす。マクミラン公爵家、オオカミ獣人は一夫一婦制っす。人間とほぼ同じ」

 いや、どこにも安心できる要素ないんだけど。

「じゃあ、他は……? 番以外とも結婚するってこと?」
「そうっすね。近いとこで言えばリオル公爵家は一夫多妻制っすね。番とも結婚して番と出会ってない他の幾人もの女性とも結婚するっす」
「そ、そっか」
「俺は独身なんで分かんないんすけど、番に言い寄られて嫌かどうかは種族差や個体差があるっすね。ケロッとしてる奴もいれば、独占欲丸出しで決闘する奴もいて」

 うわぁ……情報過多。エーファは頭痛がしてきた。さっき盗み聞きしたステージとやらによってもおそらく反応は違うんだろう。

「じゃ、エーファさん。これどーぞ。さっきからあんま食べてないっしょ。あ、俺はカラスの鳥人でハヤトって言います」
「あ、ありがとう」

 肉を刺した串をハヤトから差し出されて受け取った。なぜか他の鳥人たちの反応がまたもおかしい。

「えっと、もらったらまずかった?」
「……異性に食べ物をあげるのはカラスの求愛行動なんです……」

 ピンク髪の鳥人に聞くと、言いづらそうにしながらも教えてくれた。

「あ、そうなんだ。じゃあさっき羽根ももらったし、友情の証ってことで」

 いちいち気にしてたら、鳥人から何ももらえないよね。

「エーファ!」

 ため息を吐きたくなっていると、屋敷の方から大声があがった。鳥人たちが緊張したらしく、おさめていた背中の羽根をぶわっと一斉に出す。なかなか壮観である。

「何をしてる!」

 大声を出したギデオンはあっという間に距離をつめて、エーファの腕を取ろうとしてきたので素早く引っ込める。
 そういえば、この人。今まで何してたんだろう。これだけ騒いで人の気配もたくさんあるのに。公爵とあなたの弟はさっきからお楽しみでしたよ。晩餐いらないって料理人に伝えた方がいいんでは?

「耳元で大声出さないでください」

 エーファの返しに鳥人たちがどよめく。しかし、さっきの反応と違って心なしか楽しそうだ。野次馬的な視線をビシビシ感じる。

「どうして部屋にいない! こいつらと一体何を!」
「兄さま!」
「だから! 近くで大声出さないでください!」

 シュメオンが嬉しそうにギデオンに駆け寄るが、ギデオンは怒りのあまり気付いていないようだ。公爵は仲裁も何もしない。

「兄さま?」
「あなたの可愛い弟が何か言っていますよ?」

 エーファの指摘でギデオンは初めてシュメオンの存在に気付いた。

「そんなことはどうでもいい。こいつらと一体何をしていた! しかもなぜ鳥の羽根を持っている」

 そんなことと言われて、シュメオンは分かりやすく目に涙をためて悲し気な顔をした。泣き虫だな、この子。
 エーファはギデオンに心底うんざりした。手に羽根を持ったままだったのはエーファのミスだが。

「俺の番に言い寄ったのはどの鳥人だ! 覚悟はできてるんだろうな」

 ギデオンの睨みに数人以外は怯えている。反応を見ているだけでもなんとなく実力や性格がわかるね。ハヤトと名乗った鳥人はカラスらしくふてぶてしい態度だ。
 そしてギデオンは面倒なことに、番に言い寄られるのを傍観できない器の小さい小心者らしい。

「はぁ、ほんとにやかましい」

 エーファはとうとう、ギデオンに向かってポケットに入れていたカエルを投げつけた。結界はしっかり解いた状態で。
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